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 街の門の警備というのは忙しいものだ。

 朝、門を開いた直後は、街から外に出る者達が列を作る。急いで旅立とうという者達が騒ぎを起こさないように見張るのが主な仕事だ。

 だが、その日は呼び止められる者が多い。

 見れば、荷車を引いた者達が多い。身一つで、荷物を背負った荷運び人は止められていないようだった。

 しかし、全ての荷車が止められているわけでもない。

 止められると言っても、少しだけだ。

 ほとんどの者達は、止められて、少し兵士と話をして、通っていく。

 稀に、兵士に食ってかかる者も居るが、それでも話す時間が少し長くなるだけだ。

 いつもとは違う。

 それでも、誰かが捕まるわけでもなく、門を通って行く。


「意味あるのかよ、これ」


 一人の兵士が呟いたのは、朝に街から出る人々が居なくなった後、誰も出入りのない時間帯だった。


「それでも命令だ、やるしかないだろう」


 一緒に門の警備をしている別の兵士が答える。


「だってよ。マスクしてたってだけで、大きい奴なのか小さい奴なのか、髪の色はなんなのか、何も分かってないっていうじゃないか」


 肉屋ギルドの職員が襲われてから、既に数日が経っていた。

 街中の警備を担当している兵士も調査はしている。得られた証言は「マスクをしていた」というだけで、体格も、服装も何も分かってはいないが。

 それに数日あったのだ。街から逃げる気であれば、とっくに出ているだろう。

 手遅れというならば、手遅れだ。

 肉屋ギルドと、殴られ、財布を盗られた本人はまったく納得していない。

 それも当然と言えば、当然だ。

 そして、肉屋ギルドに押される形で、門を通る者はマスクを外し、顔を見てから通すようにと、変更されたのが今朝からだ。


「まあな」


 命令には従うが、誰も肉屋ギルドを襲った奴が捕まるとは思っていない。

 マスクを外したところで、犯人の目星すらないのだ。襲われた本人ですら、いきなり殴られたために相手を見てないし、マスクを掛けていたという一人の証言以外、見た者は出て来なかった。


「街から追放された奴が入らないように、手袋をしてたら脱がして焼き印がないか確認するだろ。それと同じようにやればいいさ」


 兵士にとっては肉屋ギルドは別に関係ない。

 決められたことをこなすだけだ。


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