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「なんだ、お前、マスク外してんのか」
「そ、そりゃ外すでしょ。飯食えないんでよ」
「お前、ちょっと前はずらして食べてなかったか?」
「あ、あれはやけどする」
「ばっかお前、それは慣れだよ、慣れ。第一、お守りだぜ、体から放してどうするよ」
「じゃ、じゃあやってみせてくれよ」
「おう、こうやってな、、、あっちっ」
一つ溜息をついて、騒がしい冒険者を見る。
随分と屋台も、客も少なくなったこの通りに、気楽な二人の声ばかりが響く。
かつての喧騒を思えば、このくらいの騒がしさなんてどうってことはないが、ちょっと時期が悪い。
「お二人さん。楽しそうな所を悪いが、今はあまり目立たんほうがいいぞ」
二人の冒険者は食べる手を止めて、こちらを伺うように見る。
「なんでも、朝方に肉屋ギルドの奴が、殴られた上に、財布を盗られたそうでな。兵士とギルドの連中が犯人捜しに走り回ってる」
「肉屋ギルドがか? でも俺たちは関係ないぜ」
「そ、そうだ。何も知らねえ」
それはそうだろう、俺だって知らないが、それでも時期が悪いのも確かだ。
「犯人はマスクで顔を隠してたそうでな。今はマスク姿で騒ぐのは、今は、やめておいたほうがいい」
二人はゆっくりと考えるようにして、食事を再開する。
とりあえず静かになったから、こちらはそれで構わない。
「で、でもよう……」
先に食べ終わった方の冒険者が話しかけて来る。
「おっさんもマスクしてるじゃねえか、それは大丈夫なのか?」
軽く、身に着けたままのマスクを撫でる。
「その通りなんだがな、もう何日もマスクを付けてて今日だけ外すってのは、そっちもどうも危ない気がしてな」
確かに、マスクを外して屋台に立っていれば、兵士や肉屋ギルドの奴らが見逃す可能性はある。だが逆に、今日に限ってマスクを外しているのは後ろめたいことがあるからだ、そんな言いがかりがないとは言えない。
それでなくとも屋台をやってずっとここに居るんだ、食事をしていった客も、通り過ぎるだけの誰かも、俺がマスクをしてることは知っている。
そう思えば、マスクをするのも外すのも、どっちも危ないように思う。
「そ、そうなのか……」
なんと言えば伝わるだろうかと少し考える。
視界の端に、兵士の姿が映った。




