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まったく嘆かわしい!
街の呪いは終わる気配もなく、人心は不安に慄いておる。
一刻も早くダンジョンを封鎖し、呪いの元凶を遠ざけねばならない。
街だけではない、儂の屋敷ですら下男が倒れた。その者は、屋敷から汚物を運び出している最中に倒れ、未だに屋敷の中には臭いが消えぬ。
子飼いの文官を呼びつけて、兵達へ流した噂の確認をする。
「はい、兵舎に出入りしている商人や、下働きの者達を通して噂を流しました。その後、折りに触れ兵舎へ立ち寄るようにしたところ、つい先日、兵士の一人から不安の声が聞こえました」
続けて文官は言う。
「今はダンジョンの恐ろしさを煽り、兵士達の不安を高めている所でございます」
文官の報告を聞き終わってすぐに返す。
「遅い」
遅すぎる。
街では既に不安は高まり、民の生活に大きな影響が出ている。時間を掛けていれば、街が滅びかねん。
「それでは遅い。街中を回る衛視であれば、民の生活もよく見えているだろう。不安を煽ることに時間をかけず、衛視の隊長に話をつけろ。もはや時間がない」
「し、しかしあまり急いでは……」
「くどい。衛視の隊長に話をつけろ。そこから巡回兵や門番の隊長に話を通せ。時間がない」
文官が退出してから独り言ちる。
「時間がないのだ」
手が遅れれば、この街は滅ぶ。
まったく忌々しい。領主がダンジョンの閉鎖さえ認めれば良いというのに。
屋敷の中はまだ臭う。
息苦しさの中で、気ばかりが焦る。




