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「随分と物々しいが、何かあったのかい?」
「物取りが出たそうだよ」
「物取り? こんな朝早くからかい?」
「ああ、なんでも、仕事に行く途中でガツンとやられたらしい」
「ガツンと? すられたってわけじゃあないのかい?」
「スリじゃあないね。ガツンと殴られて、呻いてる間に財布を持って行かれたらしいんだ」
「そいつは怖いな。兵士がすぐに捕まえてくれりゃあいいが」
「どうかね。顔を隠してたようだから……」
「顔を?」
「ああ、最近は多いだろ。呪い除けのマスクをさ」
「今朝の話は聞いたかい?」
「なんのだよ」
「肉屋ギルドの奴が襲われたってやつ」
「へえ、初耳だな」
「それが、襲った奴はマスクで顔を隠してたそうでな」
「ああ? じゃあ犯人は冒険者か?」
「さてな。今はマスクを付けてる奴も珍しくないからな。屋台の連中なんてほとんどだ」
「じゃあ屋台のやつらだろ」
「どうだろうな。でも、肉屋ギルドの奴だからな。商売絡みかもしれねえな」
「それで、犯人の特徴は?」
「いえ、それがマスクをしていたとしか……」
「それだけか? 服装は? 冒険者か、屋台の主人か、職人だって仕事毎に違うだろ」
「それが、見た奴からはマスク姿としか……」
「他には? 見た奴は他に居ないのか?」
「辺りの聞き込みは続けていますが……」
「なんてこった。厄介だな。街を出た可能性は?」
「そっちもなんとも。門に知らせは入れてますが、マスク姿というだけでは……」
「参ったな」
「隊長、もし、もしですよ? 犯人が冒険者で、ダンジョンに逃げ込んでいたら……」
「……さあな。いつもならダンジョンに入るのは巡回兵の奴らだが……」
「……そうですよね」




