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 肩に掛けた槍が邪魔臭い。

 拠点とは言え。周囲にも人がいて、見張りもいるとは言え。ダンジョンの中は安全とは程遠い。

 槍を常に持ち歩くようにと言われたときは不思議にも思ったものだが、蝙蝠に似た生き物が上から降ってくるのを目にして納得した。蝙蝠と断言できない理由は簡単で、蝙蝠を見たことがないからだ。小説の描写やテレビの映像で断片的に覚えている限りでは蝙蝠なんだと思う。翼を広げると1m以上の大きさだが、蝙蝠ってそんなものなのだろうか。


 この蝙蝠っぽいものは頻繁に襲ってきた。

 初めの数回はびっくりして槍を肩から下ろすことも出来ずに怒られた。

 なんでもあれは食い物を狙って来るので、見つけたら叩き落とせ、と。

 吸血蝙蝠、というわけではなく、野菜でも肉でも奪っていくらしい。

 だから調理中でも槍は常に肩に掛けている。袈裟懸けのほうが安定しそうだが、槍に結ばれた紐が短く、肩に掛けるくらいしか出来ない。

 短槍だと言って渡されたが、自分の身長より頭一つ分は長い槍は邪魔臭い。


 真っ赤な根菜の皮を剥きながら、槍のせいで座る体勢にも苦労して一人思う。

 カブみたいなものだろうか、根菜とは言っても葉も適当な大きさに切って食べるし、剥いた皮は塩で漬けて柔らかくしてから食べる。皮は塩に一晩以上漬けないといけないので、明日のオカズだろうか。だから皮を剥くにも下には籠を用意して、土がつかないように気をつける。


 ヒュッ。


 変な音が聞こえた気がして、根菜から包丁を離す。


 ガッ!


 離したときに、根菜は下に、包丁は上に移動したのは、幸運なのか不幸なのか。

 音を出した何かは包丁にぶつかって弾かれる。

 同時に包丁自体も反対方向に弾かれるが、手放さないように力を入れたせいか、包丁よりも少年自身が転がる。


「おーい坊主、怪我はないか」


 声を受けてというわけでもないが、自分の体を調べながら立ち上がる。

 包丁も、根菜もちゃんと手にある。


「蝙蝠を仕留めたのはいいが、ちと危なっかしいな」


 そう言って料理人が笑う。


 少年が座っていた場所の近くに蝙蝠が落ちている。


 そこまで見て、蝙蝠がぶつかってきたことに気がついた時には、料理人が蝙蝠を拾い上げて止めを刺していた。


「肉が食えてよかったじゃねーか、まとめて焼いてしまうから後で取りにこいよ。先にそれ全部切ってからな」


 街からダンジョンへ持ち込んだ食料は野菜が多めで、堅く焼き上げたパンが続く。肉はほぼなく、その代わりに、途中で狩った獲物は食べてしまうことが認められている。当然、狩った人が優先だ。


 蝙蝠か、うれしくないな。

 何かのテレビ番組で見たのだっただろうか、蝙蝠の姿焼きを思い浮かべて顔をしかめる。

 転がったせいで肩からずり落ちた槍を担ぎなおし、元の位置に座る。

 そして少年はそっとため息をついた。


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