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 街の門の警備というのは忙しいものだ。

 朝、門を開いた直後は、街から外に出る者達が列を作る。急いで旅立とうという者達が騒ぎを起こさないように見張るのが主な仕事だ。

 それが終わると散発的に荷車を引いた者達が出入りするようになる。近くの村に住む農民たちが、作物を売りに来るのだ。売り先は商業ギルドだったり、取引先の店だったりする。

 街に入る者達が出始めると、街から追放された者や、罪人が入り込まないように目を光らせることになる。

 午後になると隣街から来た商人や、荷運び人がやってくる。

 街に入る者達からは、荷物に応じた通行料を徴収する。金ではなく、荷物の一部を徴収することも多い。

 一日中、なにかしら出入りがあるのが、街の門だ。

 街道に面した街の表玄関に、人通りが途切れることはない。いや、なかった。


 朝、随分と少なくなった旅立つ者達を見送った後、人のいない時間が出来た。

 今までなら、近くの村から農民たちが作物を運び込む時間帯だ。

 街にやってくる農民はほとんど居なくなった。その代わり、市場で店を開いている者達が、朝一で街を出ては、昼過ぎに作物を抱えて戻ってくる。

 商人や荷運び人がやってくる時間帯に、市場への農作物も入って来るようになると、門は混雑する。というわけでもなかった。それは商人も荷運び人も減ったからだろう。

 最も人の多い時間帯でさえ、目に見えて人が少ない。

 呪いを避けて街に寄り着かなくなったのか。それもあるだろう。だが、門に居て聞こえる噂話だけでも、呪いはこの街だけのことではないようだ。隣街でも、山を越えた海近くの街でも、呪いは広まっているらしい。


「あお、あの話、聞いたか」


 同僚が話しかけてきたのは、街を出入りする者が誰もいない時だった。

 かつてはほとんどなかった空白の時間が、最近では毎日ある。


「なにをだ」

「巡回兵のやつら、ダンジョンに入るのを断ったって話」


 兵士にも仕事によって部署が分かれている。

 巡回兵は街の外、街道や村を見て回る兵士で、一番魔物と戦うことが多い。雪で街道を回れない時期には、ダンジョンに入って骸骨を相手にしている屈強な奴らだ。

 その巡回兵がダンジョンで何人もやられて逃げ帰って来たのは、つい最近のことだ。


「そうなのか。あれだけやられればなぁ」


 普段とあれだけ落差がある姿を見せられれば、ダンジョンの中でどれほどのことがあったのか。聞くのも憚られるくらいに、彼らは怯えていた。自然と兵舎の中は、彼らに配慮して静まり返っている。そして帰って来なかった者が何人もいることも、同じ兵舎にいれば嫌でもわかる。


「それで、今度は他の部署をダンジョンに入れるって話」

「あ?」


 巡回兵は、兵士達の中で、一番多く魔物と戦っている奴らだ。

 門の警備で魔物と戦うことなど、年に数回、街に入る農民が魔物をから逃げて街まで連れて来た時くらいのもの。当然、ダンジョンに入ったこともない。


「別の部署って、警備の奴らか?」


 街の中を見回ったり、領主様の館の警備をしている奴らは、門よりももっと魔物と戦うことは少ない。どちらかと言えば人間を相手にする部署だ。


「部署に関係なくって、聞いたぜ」


 嫌な汗が流れる。

 巡回兵がやられるようなダンジョンに入る。帰って来なかった奴らの顔を思い出す。その中には訓練で勝ったことのない奴の顔もある。


「……無茶だろ」


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