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むすっとした顔を隠さずにカウンターの前に居る。
肉屋ギルドの買い取り窓口は閑散としていた。
買い取りが減り出したのは、呪いが広がった少し後からだ。冒険者の長屋が閉鎖されてからは目に見えて減ってきた。
そしてここ数日はもっと酷い。一日、買い取り窓口に居ても、一件あるかどうか。魔物の肉を売りにくる冒険者がほとんど居ない。
カウンターの前に居る男にとってはそれが気に入らない。
買い取りの量が少なすぎて、肉は加工に回す分さえない。買ったものは切り分けて売るだけで全てなくなると聞いている。
ギルド員の販売担当からそう言われると、サボってるのと咎められているようで気に入らない。
別に買い取りをサボっているわけじゃなく、魔物肉を持ってくる奴がいないだけなのに、だ。
「おう、おめえ、どうなんだよ」
通りかかったギルド員に聞いてみる。
「どうってだけ言われても、何の話ですかい」
「俺がどうって言ったら買い取りの話に決まってんだろうが」
「ああ、買い取りですか。俺ぁてっきり飯の味が薄いって文句かと思いましたよ」
「こっちも文句はあるがよ。買い取りだ買い取り。誰も来ねえぞ」
言いながらカウンターを手の平で叩く。
拳で殴るのは駄目だ。手の平のほうが良い音がする。
「野菜が高いですからね。売らずに食ってるんじゃないっすかね」
「ああ?」
「知りません? 市場の野菜、なんか値が上がってるんですよ。肉売って野菜買うより、肉食ってたほうが安いくらいに」
「なんでだよ」
「知りませんよ。売ってる店の数も少ないっすからね、うちもカミさんの愚痴が酷くて。もっと稼いで来いって言われてもどうしようもないっすよ」
「ああ?」
「麦はまだ平気らしいですがね、塩も値上がってきてるって言って……」
最近、家の飯の味が薄いのは、そういうことかと分かっても、買い取りが少ないのは納得が出来ない。
冒険者なんざダンジョンに入るしか能のない連中だ。麦粥で十分じゃないか。




