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まったく嘆かわしい!
儂の献策を悉く無視しおって、これでは街が滅びるのも時間の問題ではないか!
兵を送ったところでダンジョンからの穢れを防ぐことなど出来ん。それどころか兵達は穢れに惑わされて逃げ帰ってくる始末。街を守る術を間違い、その間違った方法ですら失敗する。
そんなことでは穢れを防ぐどころか、人心すら離れよう。
ここまで来たら、多少、強引な手段であっても仕方あるまい。
街を滅ぼすわけにはいかん。
猛る心を静めて、一度、思考に沈む。
「兵をこちらにつける必要があるな」
無理を通そうとするならば、力が必要だ。
「あの、それは……」
子飼いの文官を手で制して、考えをまとめる。
「兵達に噂を流せ。このままだと、兵は全員、ダンジョンの中で息絶えることになると」
「は、はあ……」
「今、ダンジョンに入っている部隊だけではないぞ。全員だ。門番も、衛視も、巡回兵も、全員がダンジョンの中で死ぬと広めよ」
「あ、あの、それは一体」
「先にダンジョンから逃げ帰って来た兵の話を誇張し、逃げれば厳罰だと言え。不安を煽り、生きるためには領主の考えを正さねばならないと」
文官がゴクリと喉を鳴らす音が聞こえる。
「そ、それは、反乱では……」
「そんなことはせん。兵達の賛同は必要だが、暴走はいらん。お前が手綱を握れ。兵達の総意があれば領主と話を付けてやると、そう言って兵をまとめ上げろ」
「わ、わたしがですか……」
「そうだ、お前がまとめろ。心配いらん、領主との話は儂がつける」




