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「塩が足りないんだって?」


 閑散とした商業ギルドであっても、街の外との繋がりが完全に切れたわけではない。

 むしろ完全に切れてしまっては、この街に人が住み続けることは難しい。塩を始めとして、必需品は商業ギルドが売買を行っている。当然、運ぶのも商業ギルドが契約した荷運び人だ。


「また呪いか?」


 向こうの街でも呪いが蔓延しているのは、取引をしていれば分かる。

 荷運び人だけではなく、商業ギルドから向こうの街に出向いて取引をまとめている者もいるのだから。

 向こうで買い取った塩を、荷運び人がこの街まで運ぶ。それだけのことだが、呪いに倒れた荷運び人も多く、買い取った塩の運搬は予定よりも遅れがちだ。


「いえ、今回は魔物のようですね。塩を入れているはずの背負い袋が転がっていたそうです。ズタズタに切り裂かれてね」


 商業ギルドが契約した荷運び人は、年間を通して運ぶ量が決まっている。

 呪いで減った分の荷運び人を新たに雇う必要もあるが、一朝一夕に人は増やせない。下手に貧民など雇って、塩を持ち逃げされては厄介だからだ。

 今いる荷運び人でなんとか回していかなければならない。

 いつもより短い間隔で街と街を往復させるにも限度があるし、今、更に人が減るのは正直、痛い。


 本当なら、この街で必要な塩の量には足りていない。

 ただ、この街の倉庫にも多少の備蓄はあるし、何より、この街でも呪いに倒れる者が多い。今までよりも塩の消費が少なくなっているからこそ、保っているとも言える。


「魔物だと? 何人やられた? 兵士に連絡は?」


 街の外は兵士が巡回しているとは言え、全ての魔物を追い払うことは出来ない。野生動物のように、縄張りを誇示して歩き回るのがせいぜいだ。

 それでも効果はある。

 兵士が巡回中に倒す魔物は少なくない。

 だから、道に居座るような魔物は居ないが、運が悪いと迷い出た魔物が荷運び人に襲い掛かる時がある。

 荷運び人とは言え、一切の戦いが出来ないわけではない。

 三人も居れば、この辺りで見かけるような魔物は追い払えるはずだ。それが魔物にやられたのであれば、何か大物が出たのだろう。兵士に連絡して追い払ってもらわなければいけない。


「やられた荷運び人は一人だけのようです」

「そうか、他の奴らが逃げれたんなら、まだましか。逃げてきた奴はどんな魔物か言ってたか?」


 男の質問に首を横に振るだけで答える。


「誰も逃げてませんし、魔物も見てませんよ。やられた荷運び人は、一人で移動してたようですから」


 溜息を一つついて、続きを話す。


「ただでさえ荷運び人が少ないというのに。たった一人で街の外に出るなんて、どういうつもりなんでしょうね」


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