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「呪いが収まる気配がありません。こうなればダンジョンを閉鎖するのがよろしいかと」
「却下だ」
「ですが、兵士達でさえ大きな被害を受けて撤退してきたとか……」
「くどい!」
「領主様……」
尚も食い下がる文官を睨みつけて釘を刺す。
「先に勝手にダンジョンを閉鎖したものがあったが、貴様もそれをするか? 今度は解任程度では済まさんぞ?」
引きつった顔で退場していく文官をそのままに、書類に目を落とす。
月毎に上げられる通行料、広場の使用料、商業ギルドから上がってくる売買に関わる税収、それら全てが記憶にある昨年のものよりも少ない。
街の門を警備する兵士や、街中で領主の命令を広める告知官からも、街の中の人が減っているとの話が上がっている。
その原因は呪いにあるのは明らかではあるが、いくら医者が浄化を続けても呪いが収まる気配がない。
「よろしいので?」
「なにがだ」
「不安を納めるには、ダンジョン閉鎖も間違いではありますまい」
「ふん、くだらん」
書類の中から、商業ギルドの書類を取り上げる。
他の街と売買した物の詳細だ。交易の中心は塩、だが昨年よりも少ない。
周辺の村から街に持ち込まれた農作物についても記載がある。これも昨年よりも少ない。街の門の通行料が減っているのを見ても、持ち込まれる量自体が減っていることは間違いない。
「今、ダンジョンを閉鎖しては、ダンジョンで取れる肉がなくなる、それでは食料が足りん」
こいつだって分かっているはずだとの思いが、キツイ口調に出る。
「不安なぞ、兵士に魔物を狩らせればよかろう。そのための兵士だろう。それに……」
書類を机の上に置く。不安など、領主が顔に出すものではないと、敢えて怒りの表情で取り繕う。
「文官に閉鎖を進言させたのはあの頑固者に決まっている。ダンジョンしか見ていない老害の意見など、聞くに値しない」
「……然様ですか」




