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「はあ? なくなったってなんだよ」
ダンジョンから戻ってからは、マスクの話ばかり聞かされて、面倒でしょうがない。
いい加減、服屋でも靴屋でも頼みに行けばいいのに。何日も経っているのにまだ聞きにくる奴がいる。
そんな中で聞かされた話に思わず声を上げた。
「いや、どうも、急ぎの注文があったらしくてな……」
多少は後ろめたく思っているのか、答える口調が弱い。
だが、こっちも、ああそうですかという訳にはいかねえ。態々ダンジョンなんて危険な所に行って、その上、肉屋ギルドの尻ぬぐいだの逃げてきた兵士の世話だの、酷い目にあったんだ。
「急ぎってお前。他の街に持ってくってのは商業ギルドにも話してあるんだろうがよ!」
「あー、そいつはすまないと思ってるんだが、得意先からの注文でな……」
得意先を後回しにして、失うようなマネをしたくないのは分かるが、それでも先約は守ってもらわんとギルドとしてのメンツもあるだろうが。
心の中で悪態を付きながら、会話を続ける。
「もう売っちまったってんなら。分かった」
言いながら、こいつの工房に下す皮の量を減らすことに決める。革加工ギルドの決定を無視して、別の所に革を売っちまった以上、当然の罰則だ。
「じゃあ、他の工房のだけでも集めて来てくれ。他のところももう加工は終わってるんだろ」
「あー、それがな……」
言いよどむ奴のツラを見て、とても嫌な予感に囚われる。
「他のとこにも、急ぎの話があったらしくてな……」
ぶち切れそうになるのを歯を食いしばって堪える。
ギルドの仕事だと、人をダンジョンに放り込んでおいて、取って来た皮を別のことに使っただ? 親方連中は何を考えていやがる。
「……それでな。もう一遍、狩りにな……」
「ふざけるな!!!」
俺の怒鳴り声があたり一帯に響き渡った。




