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大きく熟したものを選んで篭に入れる。
ベポは土の上に乗っかるように実が生る。熟れたからといって落ちるようなことはねえから、木の実よりも気が楽だ。そのぶん、見落としているといつのまにか熟れすぎて割れていることがある。
こいつはベポの中でも早生の種類だから今の時期に出来る。他のベポはまだまだ先、秋になる頃だ。
種類を分けて植えているのは、今時期の食事に使うためだ。
味も大きさも、秋に実るベポのほうが良いが、秋は他にもいろんな作物の収穫時期だ。特に麦は刈った後に十分干さないと、保存が効かねえから手間がかかる。そして、そればかりを植えていては、他の季節に食べるものがねえ。
街に持って行って売ることも出来る。数が少ない作物は少しだけ高く売れる。
ただし、今は街に行くわけには行かねえ。村長から禁止されているからな。
「なあ、ベポを少し分けてくれんかね」
隣の畑の奴が話しかけてくる。
最近は毎日こうだ。麦のほうが金になるだなんて、畑の大部分の麦に変えやがったからこんなことになる。
なんでも、麦を売って金に換えておけば、街で作物だけじゃなく服も農具も買える、だとか。
だが、今は街は呪いが広がって危ない。村長から街へ行くのはダメだと話があったのはこの前の寄り合いの時だ。
なんでも、二つ隣の村で、街へ出入りしていた奴が呪いに倒れ、あれよあれよと言う間に村中に呪いが広まったのだとか。
だから金だけ抱えて、畑には芽が出たばかりの麦しかないこいつは他の畑に物貰いに歩いてるわけだ。
「分けるのは良いが、対価はもらうぞ。金で構わねえさ」
だから精々、恩着せがましく分けてやる。そして金も貰う。まあ、街に持って行ったときと同じ値段だ、別にぼってるわけじゃねえ。
うちのベポも余りはする。これだけの量は家族全員で食っても食い切れるもんじゃねえ。余った分は他の畑の作物と交換すればいいだけだ。街に売りにいけなくなって、金が手に入らないが別に困りはしない。
まあ、金もあっても困らないがな。




