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「力よ槌に宿れ」
女性の言葉と共に、大男の持つ槌がわずかな光を纏う。
「右前、上から来るぞ!」
革鎧を着た男が叫ぶ。
大男は身に纏った金属の鎧や大振りの槌の重さを感じさせない動きで体の向きを変える。
白い霧。
そうとしか言えないものが降ってくる。
もちろん霧ではない。霧が人間大の塊になることなんてない。
煙よりも希薄な、白い霧は、目で追いかけていても見失いそうになる。
「おらぁ!」
気合を入れた槌の一撃が、白い霧を通り抜ける。
金属の塊が、霧を散らし。
オオオオオオオオオオォ。
それは声だったのか、風が舞ったのか。
槌の一撃を受けた霧は消え去った。
「他には居ないみたいだな」
革鎧を着た男は、しばらく辺りを見回した後にそう言った。
その言葉を聞いて、槌を構えたまま警戒していた金属鎧の大男も、背よりも高い杖を握りしめていたローブ姿の女性も、息をつく。
「ったく、こんな浅い場所でレイスかよ」
ついてないと言わんばかりの大男に革鎧が返す。
「妙だな。ダンジョンの奥で何かあったのかもな」
「何かってなんだよ」
「さあな、大物でも出たとか」
二人の男の会話に、ローブ姿の女性も返す。
「違うわ。多分だけどね」
顔を見合わせる二人の男は、答えを言えとばかりに女性のほうを見る。
「街に惹かれたのよ。レイスは死の臭いに敏感だから」




