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大掃除の季節。
数年前から兵達の間では冬のことをこう呼ぶようになった。
この季節はいつもの巡回は形を変え、兵達は臨時の隊長に、隊員には臨時で雇った市民を入れて行われる。
いや、市民とは限らない、むしろ市民は少数で近隣の村から来た村人のほうが多いだろう。
賃金が安いからな。
槍の稽古を指揮しながら思う。
泊まる場所と食事は支給されるとは言え、払われるお金はその経費を引いた額でしかなく、しかも臨時だけに普段から勤めている一般兵よりもさらに安い。
だからここに来る市民など、野宿同然の生活をしていて冬の間の避難場所として来る者くらい。あとは宿に泊まる金が尽きた旅人が宿の主人に紹介されてくることもあるが、あれは旅人だから市民ではないのだろう。
やはり大多数は、冬の間は仕事の少ない村からやってくる農民だ。前に聞いた話しだと、冬の間の食料が浮くだけでもありがたいという話だった。不作だった年なんて特にそう。村人全員に渡る食料がないならば、その分の人間が村の外に出稼ぎに出る。そうしなければ餓死するのを待つだけだ。
最も、街に来さえすれば仕事があるなんてこともない。
街には街に住む人々の生活があり、村から来ただけの人が仕事を得ることは困難だ。
村々を回る行商人、作物を売る先の商会、昔々に村を出た人やその子孫。そう言った細い伝手を伝って荷物運びや掃除などの仕事にありつける。
もしくは、街の領主に雇われては街の整備や街道の整備の手伝いをする。が、それだっていつも人を雇っているわけでもない。一時的なものでしかない。
そういう意味では毎年、冬の間だけとは言え仕事が確実にあるのはありがたいのだろう。
こちらとしても一時的とは言え人手があるのは助かる。
ダンジョンの中の巡回なんて何の意味があるのかとも思うが、文官の知り合いに言わせると街道の巡回と同じで、回りまわって街に利益をもたらすのだそうだ。
ダンジョンから肉を持ち帰る奴らが多いほうが、肉を食べる機会も増えるし、巡視を始めてから兵舎の食堂で肉が入った食事が増えたような気もする。
だから、しっかりと稽古をつけて、役に立ってもらおうと思う。
だが、稀にまったく適性のない者が雇われてしまうのも困ったものだ。今年も一人、戦いどころか巡視にも耐えられい若者が居た。元より戦いの適性が低い者は、荷物の運搬や備品の管理などの後方部隊の補助に回ってもらうことになってはいるが、あれほど体力がない者も珍しい。
よくあの年まで生き延びてきたものだ。あの体力では何かの病気にでも掛かったら、あっと言う間に命を落とすだろう。案外、没落貴族の子供で、小さい時はまだ貴族として恵まれた生活をしていたのかもしれん。




