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兵士達は憔悴していた。
切っ掛けは深夜の襲撃。
恐らくは襲撃なのだろう。だが、何が襲って来たのかはよく分からない。
そして、少なくとも三人が倒れた。
少なくとも、そう、少なくともだ。死体が三つある。それだけの話だ。
それ以上に減った人数は、逃げたのか、攫われたのか、それとも食われたのか。
始めに倒れたのは見張りをしていた兵士の一人だった。
野営と言っても、人数が人数だ。野営地にはそれなりの広さが必要になる。二人一組で数カ所、野営地を囲むように見張りが立つ。
倒れた見張りの他にも何人もが見張りに立っていたが、一様に怯え使い物になりそうもないため見張りは交代した。この時、見張りの叫び声でほぼ全員が起き出していたために、交代することに問題はなかった。
そして夜の間にもう一人、見張りが倒れた。
そこから隊としての機能は決壊したと言ってよい。
全員が怯え、使い物にならなくなった。
早期撤退を決めて、野営地の撤収を始めたのもこの時だ。
そして、テントを全て畳んだ時、テントの中で死んでいる者が見つかった。
全てを荷車に積み込めたのは、真っ青な顔のままで作業を続けた少数の兵士の功績だ。
臨時兵だけでなく、長年兵士をやっている者であっても怯えるだけでまともに働かない者も居た。そして、なんとか移動を開始した時には朝になっていた。
点呼とか隊列だとか、そんな状況ではなかった。
多くの兵士に松明を持たせた。
朝になり、ダンジョンの中であっても多少明るくなったのと、多くの松明の明かりで、多少は気を持ち直したように見えた。
荷車が置いて行かれないように、多めの兵士を荷車に張り付け、隊長である俺は最後尾を務めた。
歩いて行く兵士の数が十人以上少ないことに気づいたのはこの時だ。
振り返っても野営地の跡には誰も残っていない。
倒れた三人の遺体を燃やす炎が見えるだけだ。




