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「本当なんだって!」


 テントの外の声で目が覚める。

 柄にもなく緊張しているらしく、昨夜はなかなか寝付けなかった。

 同じテントの奴らの邪魔をするのも気が咎めて、黙って寝返りを打つだけで何時間経ったのか。そのうちウトウトと睡魔が襲ってきて……。

 頭がボーっとして完全に寝足りない。

 同じテントの奴らは一足早く起きたようで、体を起こしている者も、テントから出て行こうとしている者もいる。

 どうも起きる時間らしいと、体を起こして伸びをする。

 眠気なんてのは、体を動かしているうちになくなるもんだ。そう自分に言い聞かせて体を起こす。

 立ち上がったところで、テントの外からまた声が聞こえる。


「嘘じゃねえって!」


 まだテントに居た奴らと顔を見合わせてから、マスクを身に着けて、足早にテントを出る。

 声のした方に行くと、数人の冒険者が、革鎧を着た一人の若者を囲んでいた。

 あの革鎧は兵士のか。

 ざっと周りを確認する。

 肉屋ギルドの奴は見当たらない。

 革鎧の奴を囲んでる冒険者の他には、下働きの奴や、調理担当の奴が居るが、すこし距離を取って見てるだけだ。

 気は乗らないが、肉加工ギルドの奴が居ないとなれば、俺が対応しなきゃならん。

 ダンジョンの準備は慣れている肉屋ギルドに任せたが、一応、共同の狩りで、しかも持ちかけたのは革加工ギルドのほうだ。ギルド員の俺が話を聞く必要があるだろう。


「よお、どうしたよ」


 冒険者たちが少しほっとしたような顔を見せる。


「こいつが、朝から押しかけて来て、よく分かんねえこと言ってんすよ」

「嘘じゃねえって言ってんだろ!」


 革鎧の若者は一人だけだ。冒険者に突っ掛かられても、正直困る。

 こういう時、気持ちだけで突っ張ってくる時には、同じ話をしていても埒が明かねえ。


「あー、その鎧は兵士んだろ。つまりお前さんも兵士なわけだ。で、なんで一人でいるのかから教えてもらっていいか?」


 話の矛先をずらしながら、なんとか聞き出した所で、状況だけは分かった。

 なんでも兵士の野営している所に、呪いが襲い掛かって死んだ兵士がいるらしい。

 夜中に突然とか、口から人の顔とかいうのがよく分からんが、ダンジョンの中で倒れるとは不運な奴だ。

 この前も呪いの元凶だとか言って魔物を晒していたが、呪いは収まっていない。また代わりの魔物でも狩りに来たか。


 まずは魔物だ。兵士がどっちにいるのかを聞き出して、そこを避ける必要がある。俺達がダンジョンに来たのは肉と皮をとるためで、呪いと戦いにきたわけじゃねえ。

 次にこの兵士のことだ。聞けば臨時雇いで、元は冒険者だと言う。夜明けに逃げ出してきたというこいつは、正直、厄介だ。

 仕事を請け負ったのに途中で逃げ出してきたなら、職人ならボコボコにされてギルド追放だ。兵士の場合はどうなのか。

 放り出したいが、元冒険者というのがさらに厄介だ。肉屋ギルドがやらかして、冒険者の機嫌を損ねてる今、元冒険者の。いや、臨時の兵士が終わったら冒険者に戻るのだろう、街から追い出されでもしなければ。冒険者の扱いが悪ければ、更に機嫌を損ねかねない。

 話を聞き出しながら、そっとマスクを撫でる。


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