127
なんというか、空気が悪い。
ダンジョンの中だ、多少、空気が淀むのは仕方ない。皮の処理だって、窓を開け、扉を開けて換気に気を付けてはいるが、それでも臭いがなくなることはない。
だがそういうことじゃない。
ここでの空気が悪いというのは、感じが悪いというか、ギスギスしているとか、そういう類のものだ。
肉屋ギルドに狩りの話を持ちかけて、祭りの時のように冒険者を集めてもらった。
祭りの時期とは関係ない、突発的な狩りだ。特に今は狩りに出る冒険者が少ない。念のために革加工ギルドでも、皮を売りにきた冒険者には話を持ちかけていた。
その甲斐あってか、冒険者を雇うことが出来て、ダンジョンの中だ。
肉屋ギルドからは、祭りの準備で何度もダンジョンに入ってる経験者を出してもらい、準備はほとんどそっち任せだ。
だから、もしかしたら、ダンジョンの中ではこれが普通なのかも知れない。
皮の買い取りで見知った顔が幾つもあるのに、皆一様に不機嫌で、話し掛けるにも気後れする。
「おう、革加工の、今日はここまでだ。寝床の準備を手伝ってくれ」
肉屋ギルドの奴が声を掛けてくるのに頷いて、荷車から必要な物を下ろす。
「しっかし、お前さん、その、マスクは外さんのか?」
お守りだからな。食事の時だけは外すが、それ以外で外す気はない。
「それより、随分と気が立ってるようじゃねえか、皆。ダンジョンの中ってのはそういうもんか?」
買い取りの窓口をやっていて、冒険者の知り合いも多いが、自分がダンジョンに入ることはない。
一様に薄暗いダンジョンの中は恐ろしい。魔物がいつ襲ってくるかと思えば気が気ではない。だが、日常的にダンジョンに入ってる冒険者たちまで、自分よりも険しい顔でいるのは良く分からん。
「あー、うちのギルドのやつが、ちょっとな」
それだけ言って、肉屋ギルドの奴は去って行く。
何をしたのかは分からんが、何か仕出かした奴が居たってことか。迷惑な。
狩りもそうだが、ダンジョンから出るまでは、魔物が襲い掛かって来ても冒険者頼りだというのに、それの機嫌を悪くしてどうするんだ。
顔見知りの奴だけでも少し話をしておいたほうがいいかもしれないな。こんな所で置いてきぼりにでもされたら堪らん。




