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あの魔物が呪いの元凶? そんなわけはない。
そんなわけはないとは思うが、違うと言い切れるような理由もない。
誰が言い出したのか、どんな理由なのかを文官に聞いても答えは返ってこない。
そして数日後、兵士の一人が呪いに倒れた。
兵舎の中は大騒ぎになった。
それはそうだ。ダンジョンで戦った魔物が呪いの元凶だと言われ、その後に兵士が倒れたのだ。
魔物と戦った者、広場まで魔物を運んだ者、兵舎に居る全員が顔色を無くした。
特に酷かったのは臨時雇いの若者達だ。
魔物との戦いでは死んだ者も、足を食いちぎられた者もいた。それが随分と衝撃的だったようで、街に帰り着いてからも何かに怯える素振りを見せたり、中には夜中に奇声を上げて飛び起きる者もいる程だった。
そこに、あの魔物が呪いの元凶だったという話。そして、兵士の一人が呪いに倒れたのだ。
呪いに殺されると、酷く怯えている。
俺だってそうだ。
立場上、怯える素振りを見せるわけには行かないが、それでも不安は拭えない。
ふと、そう、朝起きるのが辛い時、食欲が沸かない時、そんな時にふと、明日には呪いに倒れてしまうのではないかと不安になる。
呪いってのは、なんなんだ。
魔物は、分かる。
恐ろしい存在ではあるが、戦うことは可能だ。怪我をすることも、悪ければ死ぬこともあるが、そこに居るものだ。戦うか、逃げるか、自分で選ぶことくらいは出来る。
呪いとは、なんだ。
ある文官に聞いた話では、骸骨を動かしているのも呪いだと言う。
骸骨を砕いても、呪いが残っている限りは再び動き出すのだと、だからこそ、砕いた骨は持ち帰って燃やすのだと。
それは人が倒れる呪いと同じものなのか。だとしたら、呪いで倒れた者達はどうなったのか。
呪いと戦うにはどうすればいいの。呪いから逃げるにはどうすればいいのか。
どうすれば選べるのか。
混乱が収まらない兵舎に新しい命令が届く。




