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「なあ、あれに呪いの力なんてあったか?」
「あるわけないでしょ。あなたがいつも頭を叩き割ってるじゃない」
「大方、不満の矛先をずらしたかったんだろうさ。医者が浄化してもまだ患者が増えてるからな」
屋台で店番をしながら、なんとはなしに辺りの声を聞く。
今、聞こえてきたのは、冒険者らしい三人連れの言葉だ。まあ、そんなものだろうな、と思う。
屋台をやっているといろんな噂を聞く。
自分の屋台は、昼間に作ったスープに、注文を受けてから麺を入れて出している。この麺スープは麦粥よりもよっぽど食べやすいと評判だ。
作る手間は店を開ける前だけで、店を開けた後は、注文に応じて麺とスープを器に入れて出すだけだ。だから店を開けた後は、大半の時間をただ待って過ごすことになる。
暇つぶしに辺りの声を聞いてれば、まあ、いろんな話が聞こえてくる。俺には学がないが、この屋台を初めてから少しばかり賢くなった気がする。
街は呪いが広がってから、随分と静かになった。
街の外から来る商人が減り、そのうち朝晩と食事に来ていた冒険者の姿も少なくなった。なんでも長屋で呪いが広がって閉鎖されたんだそうだ。もっとも、馴染みの奴らがみんな呪われたわけではなく、ほとんどが兵士の所で働いているらしい。
数日前に、兵士があの魔物を運んでいた時にも、見知った顔がいくつもあった。
それよりも後、昨日のことだ。
この通りの屋台の一つが店を開かなかった。
街が静かになってから、割りに合わないと店を開かない屋台もいくつかあった。だが、その屋台は自分で開かいことを選択したわけではなく、呪いを受けて街から運び出されたらしい。
呪いの元凶が倒された後に、呪いで倒れる。なら元凶ってなんなんだ。
割りに合わないと店を閉めた奴らの中には、仕入れ元や故郷の村に移動したり、別の街で屋台をやるのだと出て行った者もいる。
俺も街を出て暮らしていけるならそうしたいが、伝手にも、金にも乏しい。
仕入れている村に厄介になるにも、冬を越せるくらいの金がいる。それでなくても、あの村からは冬になる度に、兵士の手伝いをしに街に来る若者がいるんだ。俺が行ったところですぐに追い出されるのが落ちだろう。
この街で生活し続けるしかない。なにか呪いから逃げられる方法があればいいんだが。




