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「告げる。この魔物こそ呪いの元凶である」
告知官の宣言で、広場に置かれた魔物へと視線が集まる。
街の広場では、数日前に兵士が持ち帰った魔物の死体がお披露目されていた。
ヘビに似た鱗模様の肌は固く、しかしながら、短くも生えている手足がヘビとは違う物だと主張する。しかもその大きさは、人よりも大きい。短い手足のついた生き物であれば、トカゲにも近しいだろう。この街の付近で、稀に見かける大型のヘビ、それよりも更に大きい。逆にトカゲはせいぜいが片手で持てる大きさのものしか見つかってはいない。それぞれの特徴を合わせれば、より近いものになるかもしれない。
だが、もう一つ。大きな特徴。それだけはヘビにもトカゲにも似ていなかった。
魔物の頭の大半を占める大きな口。鋭い牙の並ぶこの口は、死んでいると分かっていても、凶悪な印象に陰りはなし。しかも、口の中には大きな材木を入れて、口が閉じないようにしてあった。そのために、広場を囲む街の住民にも、大きな牙が並んでいるのが見える。
「なんだよ、あの牙。おっかねえ」
「呪いの元凶だなんて、怖いわ」
「兵士が何人も食い殺されたそうだ」
「見ただけで呪われるとかないだろうな?」
「元凶ってことは、もう呪われる奴は居ないってことか?」
「この前、呪われて運ばれてったやつは、外から来た商人だったぞ?」
「もうここから離れましょうよ」
「あの魔物に呪う力なんてあるのか? 魔法でも使うってのか?」
「こんなところに置いて、街中が呪われたらどうするんだ」
「早く離れよう、呪われちまう」
ざわざわと周りを囲んだ街の住民は言葉をこぼす。
見たことのない魔物。その凶悪な牙から、恐ろしい魔物だろうと考える者は多い。だが、呪いの元凶だと言われても、それが何を意味しているのかは伝わらない。いや、あるいは、告知官ですら、自分が何を告知しているのか理解していないのかもしれない。
ざわめきは不安な声で塗りつぶされ、周りを囲んでいた人々は足早に立ち去って行く。
取り残された告知官ですら、不安そうな顔で足早に立ち去り、広場には誰も居なくなった。




