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 息を潜め、音を立てないようにゆっくりと足を進める。

 周りには何の姿もない。魔物も、兵士も、見える範囲では水面も平穏に見えるが、分からない。川の流れにそって水面は常に形を変えている。

 息すら止めて、水面から出来るだけ離れた場所へ。

 その場所に着いたら、あとは時間との勝負だ。

 固めの泥としか言いようのない泥炭を桶に入れる。全力で入れる。そして全力で走って、その場から逃げた。


 他に方法も思いつかなくて、骸骨の出る通路には数日通った。多少は奥に行けるようにはなったけど、それだけだ。

 そこかに辿り着いたわけでも、暗い道が変化したわけでもない。

 そうしているうちに、手持ちの泥炭が尽きた。

 正体の分からない魔物は怖いし、近寄りたくもない。手持ちの食べ物は麦だけだから、火がなくては食べれない。だから、怖いのを我慢して泥炭を取りに行くしかなかった。


 無事に泥炭を回収して、しばらく走った所で一度足を止める。全部走って帰れるほど、寝床は近くない。

 ウリボアを引き釣り込んだ魔物は、通りすがっただけなのか、あの川を根城にしているのか分からない。水の中は見えないから注意だけはしないといけない。

 ここを通った兵士達はどうしたんだろう。魔物に合わずに通り過ぎたのか、魔物を倒して通って行ったのか。帰る姿は見ていない。見たのは奥に進む姿だけだ。

 兵士達が魔物を倒してくれていれば安心も出来る。ただ、そのためには兵士に合って話しを聞いてみないといけない。病気は罹っても、その場で熱が出たり倒れたりするわけじゃないから、ここを通った兵士が病気に罹っていないとは言い切れない。だから近寄りたくはない。

 分かれ道はないのだからこの奥に進んだはずで、追いかけることも出来るけど、近寄りたくはない。それともこの数日のうちに帰っただろうか。骸骨と戦っていた間に帰っているなら分からない。


 とりあえず今は寝床に戻って、泥炭を乾かさないといけない。

 麦の残りも確かめないと。また寝床までウリボアが来てくれないだろうか。でも、草を結んで作った罠は、もう草が枯れてしまっている。あれはもう罠としては使えないかもしれない。それはとても困る。


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