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どんな理由で兵士達がここを通って行ったのかは分からない。
自分が知らないだけで、定期的にここを通って奥まで行っているのかも知れない。
だけど、兵士が、街から人が、病気が来るのなら、もっと奥に逃げないといけない。
兵士達が向かったのは明るい通路だった。泥炭がある場所に繋がっている通路だ。
なら自分は暗い通路から奥に逃げないといけない。それが骸骨がいる道であっても。
心を決めて、こん棒を握る。
荷物は全て背負い袋の中だ。ウリボアから取った皮に、まだ残っている麦や塩、桶には乾かした後の泥炭を拾い集めて入れる。泥炭はそれほど沢山はないけれど、数日間の食事の用意は出来ると思う。見た目は乾いた土だから、火を付ける時は地面に置いて使う。移動中の明かりには使えない。
慎重に暗い脇道に踏み込む。
歩くのはやっぱり隅のほうだ。壁が近いとちょっとだけ安心出来る。
周りに注意しながら、歩く。
足音はあまり立てないようにして、骸骨の音がしたら気がつけるように。
カチャ、カチャ。
来た。そう思った。
暗い中を歩き続けて、疲れ始めた頃に音が聞こえた。
まだ音だけで、どこにいるのかは分からない。こん棒を握る手がじわりと汗ばんでくるのを服で拭う。
カチャ、カチャ。
奥の暗闇から、白い骸骨の頭がぬらりと現れる。
そっと背負い袋を下ろして壁際に置く。こん棒を握りしめる。
骨の体が見えてくる。
向こうは素手だ。武器は持っていない。こん棒で殴れば勝てるはずだ。
息を吸い込む。
カチャ、カチャ。
近づいてくる骸骨の頭に、全力でこん棒を叩き込んだ。




