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カツカツと、ガチャチャと、音がする。沢山の音だ。
慌てて、寝床のある段差の上で腹ばいに伏せる。
その日は朝食に最後の肉を焼いたあと、水を汲むだけで、探索にも、泥炭を取りにも行っていなかった。
本当なら少しでも探索をしたり、泥炭を集めたりしたほうが良いのは分かってる。
でも暗い道の奥には骸骨が出るし、泥炭のある場所のすぐ近くの川には鰐っぽい何かが居る。泥炭は泥っぽくて、踏み込んだ足が沈むくらいには柔らかいけど、魚が泳いでこれる程には柔らかくない。それに、川の中から出て来るのかも分からない。でも、泥炭を拾っている間に襲われたらと思うと、あまり近づきたくない。
そんなことを考えながら寝床ある段差の上に居たら、音がした。
足音だけじゃない、金属っぽい固い音もする。
咄嗟に頭に浮かんだのは暗闇で見た骸骨。もしあの骸骨が沢山移動して来たなら、絶対に見つかってはいけない。段差の上下の差は、自分の肩の高さくらい。ウリボアが上がって来れない高さがあるから安心してたけど、骸骨なら上がってくるかもしれない。
段差の上で出来るだけ奥の壁際に寄って、腹ばいに身を隠す。この場所は、他に比べてとても明るいけど、直射日光が当たっているわけではない。影の中に入ったような明るさだ。出来るだけ壁に近寄れば、暗い中に身を隠せるはずだ。
カツカツと、ガチャチャと、音が近づいてくる。
自分の心臓の音が、それに負けるものかと煩く聞こえてくる。
じっと息を潜めて待つ。
待つ内に、音が入口の方向から聞こえているのに気づく。骸骨のいた暗い通路ではなく、泥炭のあった奥のほうからでもなく、入口に近いほうからの音。
冒険者だろうか。
でも、冒険者はあまり奥まで入りたがらない。奥に行くとその分、帰るのにも時間が掛かるし、獲物の肉を運ぶにも苦労する。
息を潜めている中で姿が見えてくる。
似たような革鎧に長い槌。あれは兵士だろうか。
少なくとも顔がある。骸骨じゃない。
見つかっても殺されることは無さそうだと一息。でも、腹ばいのまま隠れるのは止めない。通り過ぎていく兵士達の誰かが病気だったら、そう思うと話し掛けることも出来ない。
兵士達が通り過ぎていくのを、じっと待った。




