赤ずきんちゃん VS 赤ずきんちゃん(2P・色違い)
「それはお前を食べるためだよ!」
なんということでしょう! 布団の中にいたのはおばあさんではなく、人食い狼だったのです。
狼は赤ずきんちゃんが身構える前に襲いかかってきた!
みんなでペンライトで応援しよう!
せーの! 「赤ずきんちゃーん!」
ジャガジャガジャッジャッジャー!
『挑戦者あり』
その時でした。おばあさんの家の扉が開くと、もう一人の赤ずきんちゃん。
狼は右を見たり、左を見たり。
「どっちが本物の赤ずきんちゃんなんだ?」
入ってきた赤ずきんちゃんは言います。
「もちろん私が本物よ! 私が主役なのよ!」
「いやいやいやいや」
最初からいた赤ずきんちゃんは両手を振って否定しました。
「あなた誰なの?」
「私? 私は赤ずきんよ?」
「ウソ言わないで。私が赤ずきんなのよ?」
「それが今日から交代ということよ」
「なんでよ。第一、あなたのずきんは紫じゃない!」
「そーよ。ツープレイヤーだからしょうがないでしょ」
「なによそれ。ツープレイヤー?」
後ろでは狼が激しくアッパーカットのようなことをやっています。このステージの背景みたいです。
紫の赤ずきんちゃんは言いました。
「あなた勝負ね!」
「なんでよ」
「勝ったほうが赤ずきんちゃん。それでいい?」
「いいわけないでしょ。あなたは紫なんだから紫ずきんなのよ?」
「また訳の分からないこといって。話をごまかさないで!」
「いやいや。この赤ずきんは大好きなおばあさんに買って貰ったんだけど?」
「私もおばあさんにこの赤ずきんを買って貰ったのよ」
「いや赤じゃないじゃん。紫じゃん」
「また屁理屈ばっかり。やな女。そーゆーの読者が一番嫌いなヤツ」
「いやいやいや。え? 私が間違ってるの?」
「ともかく、私は赤ずきんなの!」
「いや赤くないじゃん。赤ずきんじゃないよ?」
「じゃなに? 信号の色は緑だけど青信号。緑の野菜は青野菜。それはどう説明するわけ?」
「いやそれは昔の日本に『緑』という言葉がなかったから『緑』も『青』と言われたのよ」
「意味分かんない。ともかく勝負よ!」
「なんでよ! そんでなんの勝負なわけ?」
その時でした。外から別の声です。
「その勝負! この私が預かったあ!」
そう言って入ってきたのは狩人でした。狼を狩るのが得意な狩人は狼の臭いを追ってここに来たのですが、なにやら赤ずきんちゃんたちが言い争っているので、審判を買って出たのです。
「ふふん。役者は揃ったわね。いざ尋常に勝負なり!」
「なんでよ。やらないわよ? 勝負なんて。私が赤ずきんだもの」
「逃げるのね!?」
「逃げるとかどうこうじゃないんだけど……」
そこに狩人も仲裁に入りました。
「まあまあ、赤いほうの赤ずきんちゃん。自分が本物なら、堂々と勝ってそれを示せばいいんじゃないか?」
「いやなんでですか? 万一負けたら私が赤ずきんじゃなくなるんでしょ? 私、損しかないじゃないですかあ」
赤い赤ずきんちゃんが狩人に訴えるものの、聞き入れて貰えず紫の赤ずきんちゃんが声を荒げます。
「ほーら。またデモデモダッテ。食い下がればなんとかなると思って。お里が知れるわね、この偽者!」
「なんでそうなるのよ!?」
狩人は笑顔で諭しました。
「ここで勝負しないと、それこそ偽者だと認めることになってしまうよ?」
まったく自分に得がないと想いながらも、赤い赤ずきんちゃんは同意するしかありません。
狩人は戦いの幕を切って落としました。
「第一回! チキチキ、ボタン早押しクイズ対決ーー!!」
紫の赤ずきんちゃんは盛大に拍手を送り、赤い赤ずきんちゃんは冷めた目でそれを見ています。狩人は続けます。
「ルールは簡単。席について貰い、クイズが始まったら分かったところで目の前のボタンを押して回答。正解者が本物の赤ずきんちゃん! お手付きの場合、一回休みとなるので注意してください」
紫の赤ずきんちゃんは、隣の赤い赤ずきんちゃんを睨んで挑発します。
「ふふ。勝ったわね。私は昔から『早押しの紫』、『疾風の紫』と言われてるのよ?」
「だったら、あなたの名前はそれでいいじゃない」
「問答無用。叩きのめして私が本物の赤ずきんだと証明して見せるわ!」
司会者の狩人は、二人にじゃんけんをするように促します。二人はじゃんけんすると『早押しの紫』が勝ちました。
赤い赤ずきんちゃんは震える己の手を見つめました。
「ふふん。勝負あったわね」
紫の赤ずきんちゃんが赤い赤ずきんちゃんにそう言ってる間に、狩人がパネルボードを出してきました。
パネルには『スポーツ』『芸能』『歴史』『社会』『数学』のジャンルがあり、その下に10、20、30の点数が書かれています。
「さあ『早押しの紫』さん、ジャンルと点数をお選びください!」
「えーと、じゃあ歴史の30!」
狩人はすかさず歴史の30の問題を読み始めました。
「問題。『関ヶ原の戦いで──』」
ピンポーン。
「おおっと、『早押しの紫』さん速かった! 『早押しの紫』さん、答えをどうぞ!」
なんというスピード! さすが『早押しの紫』! もはや勝負は決まってしまうのか?
『早押しの紫』は不敵な笑みを浮かべて答えた。
「きなこもち!!」
ブー!
「あんこもち?」
ブー!
「あ、あんころもちだった!」
ブー!
「じゃあ醤油もち」
ブー!
「えー? じゃあなに餅なの?」
ブー!
「餅はあってるんだよね?」
「これ、何回答えてもいいの?」
赤い赤ずきんちゃんの疑問は当然のことでした。狩人は『早押しの紫』を制止します。
「はい『早押しの紫』さん、回答は一回のみにしてください。それでは回答権は赤い赤ずきんちゃんに移ります。さあ赤い赤ずきんちゃん! 問題を良く聞いてお答えください!」
『早押しの紫』は相当悔しがっています。赤い赤ずきんちゃんは横目でそれを見ていました。
『早押しの紫』はギロリと赤い赤ずきんちゃんを睨み付けます。
「アンタ、私の答えパクったら承知しないからね!」
「……いや答え餅じゃないと思うけど──」
狩人は問題の続きを読み上げました。
「では問題『関ヶ原の戦いで西軍として参加するものの東軍側に寝返り、東軍を勝利に導いた人物は誰』?」
ピンポーン。
「はい! 赤い赤ずきんちゃん!」
「ええと……小早川秀秋……ですか?」
『早押しの紫』はそれを笑います。
「バカね。そんな名前聞いたこともないわ。じゃあ次は私の番ね」
「せいかーい!」
「え?」
狩人の声は高らかに正解を告げました。『早押しの紫』はすぐに抗議しました。
「なに言ってんの? なに言ってんの? そんなマイナー問題認められない!」
「いやいや『餅』って。それが当たるの十兆分の一よ?」
「あーはいはい。また始まった屁理屈。アンタ『屁理屈捏ね娘』に改名しな!」
「なんでよ。全然屁理屈じゃないわよ」
「またそうやって自分を正当化! 読者は誰もアンタを赤ずきんちゃんだと思ってないわよ? ここにくる途中のみんなも言ってた!」
「みんなって誰?」
そんな言い争いの間に狩人は割って入って赤い赤ずきんちゃんの手を取って持ち上げました。
「勝負を制したのは赤い赤ずきんちゃんです!」
赤い赤ずきんちゃんはニッコリと微笑むと『早押しの紫』に言いました。
「自分の国にお帰りなさい。あなたにも家族がいるのでしょう?」
『早押しの紫』は赤い赤ずきんちゃんの勝ちゼリフを聞くと目に涙を浮かべて入り口に走りました。
「なによみんなして! 私は……私は認めないからね!」
そう言って扉を開けて走って出ていったのです。
「ず、ずきんちゃん!」
追いかけたのは狼でした。彼が扉を開けると、ちょうどおばあさんが帰ってきたところで、二人ともそこで軽く会釈を交わし、狼はそのまま出て行きました。
おばあさんは赤ずきんちゃんに尋ねます。
「なにがあったの?」
「お、お、おばあさん、生きていたの? てっきり狼に食べられたものかと……」
「え? 買い物に行くから狼さんに留守番をお願いしたのよ。もしも赤ずきんちゃんが訪ねて来たら少し遊んであげてってお願いしてたんだけど……」
そう言われてみれば……。狼のあの態度は本当に襲う感じではなかったなと思い返しておりました。
◇
一方その頃、その狼は紫の赤ずきんちゃんを追って走っておりました。
すると、紫の赤ずきんちゃんは路傍の大樹に寄りかかって下を向いていたので、狼は走るスピードを緩めて紫の赤ずきんちゃんに近づきました。
「──ひっでえなアイツら。みんなしてお前のことをよ」
そう言って彼女のそばに寄ります。
「なによ……」
「ん……」
「あなただって私のこと赤ずきんだなんて思ってないくせに」
「……まあいいんじゃねえか?」
「は?」
「赤ずきんだろうが紫ずきんだろうが、ずきんはずきんだろ?」
「フン……」
紫のずきんはそっぽを向いてしまいました。
そのうちに、ポツリと呟きます。
「ずきんはずきんか……」
その言葉に狼はフッと笑いました。そして頭の後ろに両手を添えて歩きだします。おばあさんの家の方向とは別なほうに。
「それじゃあ行くかあ」
「……行くってどこへ?」
「別の町だよ。お前も来いよ」
「ま。命令しないでよね」
「へーへー。ところでなんて呼べばいいんだ?」
「好きに呼べばいいでしょ。赤でも紫でも」
「分かったよ。赤ずきん」
紫の赤ずきんは笑顔になって狼の隣に並びました。
青い空には白い雲が流れます。
今日も平和です。
でも突然、銀の空にオレンジの雲が流れたらどうしましょう?
人生にはいろんなハプニングがついて回ります。
ですから人生は面白いのです。
紫の赤ずきんと狼だって。
二人ならきっと楽しい人生を送っていくのかもしれません。
【おしまい】




