第98話 大事なのはそこじゃない
「んんっ……」
私が朝、目を覚ますと、私のベッドに、
「あ、お目覚めですか、お嬢様っ」
「お寝坊さんですね、クリスお嬢様はっ」
「すぅ……すぅ……」
3人の女の子――いや、3人の私の彼女がいた。ソラリスとエルザさんは私のことをうっとりとした目つきで眺めているし、プリシラは私の腰に抱きついたまま幸せそうに寝息を立てていた。
……え? なんで? えっとたしか……
私は寝起きでぼんやりとしている頭を何とか目覚めさせて、昨晩のことを思い出した。
そうだ、確か昨晩、3人と付き合うことになった後、夜も遅くなったからそろそろ寝ようかってなった時に――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『さ、お嬢様? 今夜も一緒に寝ましょうね?』
『んな……!? ちょっと、クリス……!! どういうこと……!?』
『え、いや、その……』
プリシラが凄い剣幕で迫って来た。それに対してソラリスは涼しい顔で、
『ここ最近、毎日添い寝をさせて頂いていたんですよっ。ね~? お嬢様?』
『あ、うん』
『聞いてないわよ!? そんなのずるいわっ!! 私なんて、デートの時くらいにしか添い寝させてもらってないのに!!』
ずるい!? そんなふうに言ってくれるなんて……何か感動しちゃう。
『へ、変なことをしてるんじゃないでしょうね……?』
『変なことってどんなことですか~?』
『そ、それは、その……』
『もしかしてプリシラ様、なんかアレな想像なさってます? 私はただ専属メイドとして、お嬢様にご奉仕をしているだけですよ~?』
『添い寝がご奉仕だって言うの……?』
『え? プリシラ、そんなの当然でしょ? 専属メイドはお嬢様に膝枕とか、お風呂でお背中をお流しするとか、添い寝とかでご奉仕するのは極々当たり前よ? ねぇ、お姉様?』
『ええ、その通りですとも。あなたにもしっかりと仕込んであげるからねっ』
『はいっ、お願いします、お姉様っ! 大好きですっ!!』
エルザからの援護射撃にプリシラがぐぬぬと顔をしかめ、ソラリスは可愛い妹の頭を撫でてあげていた。
『で、でもそんなはしたないことっ……』
『私は何もやましいことはしてませんよ? ね~お嬢様?』
ソラリスはニコニコと笑いながら私にぎゅっと抱き着いてきた。い、言えない……私の方は最近ではやましい思いを抱いていたなんて、とても言えない……
『でもでもっ……もうあなたはクリスの婚約者……候補になったんでしょ?』
『そうなりますね、えへへ……』
『そうなったら、添い寝なんてもうダメでしょ!? 婚約者候補の身で、式もまだなのにそんな……!』
確かに、それはその通り……かも。
だって専属メイドや友達の立場としてなら一緒に寝るくらい問題ないけど、それが婚約者となれば話は別だ。
という事でこれからは添い寝は無しで――
『いえいえ、私はまだお嬢様と正式に婚約したわけではありませんから、メイドとして添い寝をさせて頂いても問題ありませんっ!』
『ちょっと!? それずるくない!?』
プリシラが地団太を踏んでいる。なんか、こう……こうまで焼きもち焼いてくれると、胸のあたりがぽわ~っとあったかくなってくるって言うか――
『――そういうことなら、私もまだ正式に婚約したわけじゃない、わよね?』
『え、いや、それは……』
そうだけど、え? ちょ、プリシラ……?
『だから、これからは――私もあなたと添い寝させてもらうわっ!!』
『な……!?』
『だって私、あなたの友達でもあるんでしょ? だったら一緒に寝てもおかしくないわよね? それに――』
プリシラが、ジトッとした目でソラリスを見つめた。
『――この子が、あなたを襲わないように、第一婦人候補として監視しないといけないし!!』
『襲う!?』
『それはそうでしょ!! だって、念願の相手と両思いになれた女の子が、その想い人とこれからも一緒に寝るって言ってるのよ!? そんなのどう考えても襲われるでしょ!!』
え、えええ……!? そ、そんなこと……
『しない……わよね? ソラリス?』
『………………』
ちょっと!? なんで沈黙!? ソラリスさん!?
『ソンナコト、アリマセンヨ? ワタシヲシンジテクダサイ』
何で棒読みなの!? ねぇ!?
『――というわけで、今日から私もこの部屋で寝るから、いいわね?』
『え、いや、でも風紀とかそういうの……』
『あなたに文句を付けられる風紀委員なんているの?』
……いない、とは思うけど。でも私、結構品行方正に過ごしてきたんだけど……
いや、プリシラにいじわるとかはしてたけどね?
『まぁ……私としてもプリシラ様が抜け駆けしないか不安ですし、相互監視ということで了解しました』
『という事でこれからは私も一緒に寝るってことで決まり!! いいわね!?』
『あ、はい……』
『ま、この辺が落としどころですね。それじゃあキングサイズのベッドを手配しておきますね?』
やれやれって感じで言うソラリスに、くっついていたエルザさんがバッと手を上げた。
『はいはい! それじゃあ私も!! 私もクリスお嬢様と一緒に寝たいです!! まだ一緒に寝たことないですし!!』
『エルザさん!?』
エルザさんまで!? ベッド狭いよ!? いや、問題はそこじゃないか。
『もうっ、エルザ、と呼び捨てしてくださいまし。私はクリスお嬢様の忠実なメイドなんですからっ』
『え、あ、はい』
『ねぇクリスお嬢様? お優しいお嬢さまは私だけ仲間外れになんて……しませんよね?』
『それは……!! も、もちろんよっ……!!』
こう言うしか、ないわよねぇ!?
『えへへ~、お嬢様と初添い寝……楽しみですっ』
『ダメだからねっ、エルザ。お嬢様はみんなのものなんだからっ』
『そう言うあなたが一番信用できないんだけど……』
『ああっ、プリシラ様ひどいっ! この目を見てくださいよぉ!』
『欲望でギラギラしてるわね』
『ひどぉぃ!』
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……そんなこんなで、私達はやや大きめではあるものの1人用のベッドに、4人でぎゅうぎゅうになりながら寝たのだった。
だいぶ寒くなってきていたから暖かかったのは良かったけど、それにしてもこの子達全員が私の彼女って……今でも信じられない。
……え? これ夢じゃないわよね……って思った途端に腰にしがみついたプリシラが、「ううん……」とかなまめかしい吐息を漏らしながらモゾリと動いて、これが夢じゃないんだと実感できた。
ああっ……幸せっ……
「今日中にはベッドを搬入させますので、狭いのも今日だけですよ、お嬢様っ」
「そ、そう……それは、うん、良かったわ」
大事なのはそこじゃない気もするけど……まぁいっか。




