表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

95/115

第95話 プリシラ、あなたもなの……!?

 プリシラの声が聞こえて、私は我に返った。


 ――いや、ダメでしょ!? 今の状況!! 確かに私はソラリスのことが好きで、ソラリスも私のことが好きみたいだけど……でも、こんなのいきなりすぎる!!


「そ、ソラリスっ……」

「どうしたんですか? お嬢様……」


 ソラリスの指が、私の制服のボタンを1つ外す。


「だ、ダメよこんなことっ……」

「こんなことって、どんなことですか?」


 ソラリスはにっこりと笑いながら、私の頬に手を当てた。


「どんなことって……今ソラリスがしていることよっ……」

「そうは言いましても……お嬢様、私を妾にしてくれると言ったじゃありませんか」

「そ、そうだけどっ……でもっ……」

「私は、お嬢様を愛しています……お嬢様も、私のことが好きなんですよね?」

「そうよっ……でも……式も挙げてないのに、こんなの……はしたないわっ」

「でも……」


 それを聞いたソラリスがいたずらっぽく笑う。


「妾ではそもそも、式はあげられませんよ~?」

「あっ……」

「でしたら、構わないんじゃないかと思うんですけど……いかがですか?」

「あううっ……」


 確かに、それはその通りだ。この子と私では、正式に式を挙げることさえできない。それなら確かに――


 コンコン


「クリス……ねぇ……いるの……?」


 ――いや!! いやいやいや、ダメだって!! だって私、ソラリスのことも好きって気付いたけど――プリシラのことも好きなんだもの!!


「と、とにかく、今はダメッ……プリシラに会わないと……」

「そうですか……仕方ありませんね……それでは……」

「……!?!?」


 プリシラを出迎えようとする私に、ソラリスがのしかかって来た。


「そ、ソラリ――」

「じゃあ、これからは毎日最低でも1回、私とチューして下さい。そうしたら、どいてあげます」

「ふぇ……!?」


 チュー!? え、ええええええ!?


「でないと、どいてあげません。……いかがですか?」

「ちゅ、チュー……!? したい、の……? 毎日……?」

「はいっ」


 私の目の前にあるソラリスの顔が、満面の笑みを浮かべている。


 コンコン、コンコン


「ねぇクリス……ねぇってば……」


 ドアの向こうから、プリシラの声が再度聞こえてくる。


「わ、わかったわっ……毎日チュー……ね?」

「ありがとうございますっ……!! お嬢様っ……!!」


 言い終わるか終わらないかのうちに、ソラリスが抱きついてきた。


「ああっ……お嬢様っ……愛してますっ……」


 そして私の抱き心地を堪能したのか、ソラリスはゆっくりと離れて、


「では、プリシラ様を出迎えてきますね? ……服、直したほうがいいと思いますよ?」


 ソラリスはクスッと笑うと、メイド服の裾を翻してドアの方に向かっていった……


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 私は乱れた息を整えながら体を起こしてベッドに腰かけ、同時に乱れた服も整えていく。

 あ、あぶなかった……あのままプリシラが来なかったら……私……流れのままにソラリスを受け入れちゃってたかもしれない。でもやっぱり、結婚前にそう言うのは良くないわよね、うん。……まぁ、結婚できないんだけど……


「お連れしました~」


 そうこうしていると、ニコニコ顔のソラリスが、顔を真っ赤にしたプリシラを連れて来た。


「ご、ごきげんよう……」

「え? あ、ごきげんよう……」


 いや、なんで今その挨拶? もしかしてプリシラも動揺しているのかしら。だってプリシラ、私にキスを――


「……!!」


 プリシラを目の前にそのことを思い出して、私の心臓が飛び跳ねた。


「え、えっと……座っていい……かしら?」

「あ、ええ、どうぞ……」


 プリシラがおずおずとした感じで、でも私にぴったりと身を寄せてベッドに腰掛けた。


「――それではお嬢様、私は隣の部屋で控えてますので」


 ペコリとお辞儀しながら部屋から出ていくソラリスに、私はコクンと頷くことしかできなかった。

 ついさっきまで、この子ともキス――していたのよね、それもあんなに熱烈な――


「――ねぇ」

「ひゃいっ……!?」


 プリシラに手をぎゅっと握られて、私は飛び上がった。


「その……悪かったわね、さっきは……いきなり――して」

「え、あ、え……」


 何か言おうとしたけれど、言葉にならない。


「でも……あなただって悪いのよ? だってあなた、ほんっっっっっとうに鈍感なんだもの……。だって、私がその……やき……もち焼いてるのに……あなたったら、完全に勘違いしているんだもの……腹も立って当然でしょ……?」

「やき、もち……?」


 本当に……?


「そうよっ……私、すっごい焼きもち焼きみたいなの……だってあなたがあの……何て言ったっけ? あの子爵の息子と屋上に上がっていくのを見て……なんかもう胸がムカムカしたんだもの」

「そ、そうなんだ……」

「それで……その……確信したのよ……これが……何ていうか……」


 そこでプリシラは言葉を区切って、私のことをじっと見つめて来た。そして、


「――これが、恋なんだって」

「……!!!!」


 私は、言葉に詰まった。あまりのことに、何も、言葉が出てこない。


「私……あなたのこと、好きになっちゃったみたいなの……おかしいわね、あんなに嫌っていたはずなのに。私、世界で1番あなたのことが嫌いだったのよ? それが、まさか、ね……」


 プリシラは握っていた手をいったん離し、そして改めて指を絡めて来た。


「私、あなたのこと、好きよ……」


 そしてまた、私のことを好きだと言ってくれた……!!


「――ちょっと、私ばっかり喋らせていないで、あなたはどう……なのよっ」

「……ふぇ?」

「あれだけ私に優しくしてくれたのは、友情なの? それとも……」


 プリシラが、期待と不安が入り混じったような潤んだ瞳で、私のことをじっと見つめてくる。繋いだ手は小刻みに震えていた。


「私は――」


 プリシラは、ごくりと息を飲んだ。そして、


「好き――大好き」


 ようやっと、言う事が出来た。

 数十年、ずっと言いたくて言いたくてしょうがなかった言葉。

 失ってから初めて、私がどれだけ大切なものを失ってしまったか気付いた、その時から、ずっと、ずっと――


「あなたのことが、好きよ、プリシラ」


 やっと、言えた。そのことで私は、これまでの人生が無駄でなかった、生きてて良かったと心から思えた。


「……そ、そう……!! そうなんだ……」


 私からの返事を聞いたプリシラは、顔を真っ赤にしながら頷いていた。


「あ、あなたも好きだって言うんなら、仕方ないわねっ……!! その、えっと……つ、付き合ってあげてもいいわよっ……」

「プリシラっ……!」


 プリシラと、お付き合いが出来る……!! こんな日が来るなんてっ……!!


「それで、その……け、結婚を前提に……ってことでいいのよね……?」

「ええ、勿論っ!! プリシラには、ぜひ私のお嫁さんになって欲しいわっ!」

「しょ、しょうがないわねっ……そこまで言うなら……いいわよっ!! あなたのお嫁さんになってあげるわっ!!」

「プリシラっ……!!!!」


 私は感極まって、プリシラに抱きついた……!!


「ちょ……!?」

「ああっ……プリシラっ……好きっ……!! 大好きっ……!!」

「も、もうっ…………私も、好きよっ」


 幸せっ……今すぐ死んでもいいくらい、もう幸せ過ぎる……!!


「………………」

「プリシラ?」


 どうしたんだろう、黙っちゃって。


「――式は、卒業後すぐって感じ……かしら?」

「え? ええ、そうね、そうだと嬉しいわ」


 プリシラと、結婚……結婚……うへへ……

 思わずにやけちゃう。だって、結婚よ、結婚! 何十年も想っていた相手と、ついに――


「――そうなると、やっぱり……それまで我慢しないとダメ、よね?」

「え?」


 何が? と言おうとして、プリシラの目が――ベッドに注がれていることに気が付いた。

 密室に、結婚を誓い合った、女の子が2人ベッドに座って抱き合っている、以上から導かれる答えは――


 ――ちょ!? プリシラ!?


「え、えええええええ!?」

「そうよね、うん、我慢しないと……でも、ううん……」

「あ、あの……プリ……シラ……?」

「でも、黙ってたらバレないんじゃないかしら、うん、そうよね……」


 何か私の耳元でブツブツ言ってるんですけど……!?

 プリシラ、あなたもなの……!?


「ねぇ、クリス――」

「だ、ダメだからね!?」

「まだ何も言ってないけど」

「だ、ダメダメ、絶対ダメ!!」


 さっきも流されそうになったけど、それでもやっぱりダメなものはダメだ。


「そ、そう言うのは、初夜まで禁止……!!」

「ええ……でも……」

「ダメなものはダメっ!! 貴族的に、そこは譲れないわっ……!!」

「……ちょっとだけだから、ね? いいでしょ?」

「ダメ~~~~~っ!!」

「……ぶぅっ」


 プリシラが不満げに鳴いた。危ない危ない。

 そりゃあその……私だってプリシラから愛されたいけど……でも、貴族としてのルールってものがあるからねっ!


「しょうがないわねっ、残念だけどあなたを可愛がるのは初夜まで我慢するわ……本当に残念だけど」


 心の底から残念そうに、プリシラは言った。え、そこまで残念なの……?

 てかソラリスもそうだったけど、私が可愛がられる方なのね……いや、確かに私もそっちがいいけどさぁ。


「でも、キスくらいならいいわよね?」

「それは……せ、セーフっ!」


 うんうん、それくらいならいいわよね、うんうん。


「じゃあ早速……」


 プリシラはそう言いながらにっこりと笑うと――そっと目を閉じた。


「……ほぇ?」

「何よ、間抜けな声出して……ほら、キスしてよっ」

「え……!? い、いいの……!?」


 大好きなプリシラが、私の目の前で目をつぶって、キスしていいなんて言ってきている……!! これはなに!? 天国!?


「いいわよ。だってさっきは私からしたわけだし、今度はあなたからして貰わないと不公平でしょ? それに……」

「それに……?」

「――私、あなたの彼女になったんだもの。だから……キスくらい、いつでもしていいのよ……?」

「はうっ…………!!」


 やばい、心臓止まったかと思った。てか本当に一瞬止まったんじゃ……?

 私はちゃんと自分の心臓が正常に稼働しているか、薄い胸に手を当てて確かめた。

 よかった、動いてた。


「クリス……?」

「な、何でもないわ……!! 大丈夫!!」

「そう? ならいいけど……」


 でもそんな私を、プリシラは焦らしていると勘違いしたのか、


「もう……焦らさないで、ほら、早くっ……」

「~~~~~~~~~~~~~~っ!?!?!?!?」


 まるで甘えるように、いや、実際甘えながら、キスのおねだりをしてきた……!!

 あっ……もうダメッ……死んじゃうっ……私死んじゃう……


「じゃ、じゃあ……いくわねっ」

「ええ、いいわっ」


 そして私は何十年もの間想い続けたプリシラと、唇を交わした――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 尊い…
[一言] うおぉぉ、おめでとー! 後はプリシラに二股(良い言い方が思いつかない)について容認してもらわねばな…
[良い点] プリシラ→ソラリス→プリシラ二股に忙しいお方。 心臓止まるどころか毛がはえてるよー ソラリス隣の部屋で控えて…聞き耳たててるんだろうなぁ [気になる点] 自己申告するくらい嫉妬深いプリシ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ