第91話 【ソラリス】頑張らないとっ
ソラリス視点でのお話です。
「ふふっ……お姉さま、いいんですか?」
「何が……?」
お嬢様とプリシラが隣の部屋で膝枕をしている。私はそんな2人を見送る形でソファに座っていると、エルザがニコニコとしながら隣に座って来た。
声は当然、隣の部屋の2人に聞こえないように抑えめだ。
「何がって、そりゃあもちろん、愛しのお嬢様のことですよ」
「……」
「だって愛しのお嬢様は今、お姉さまの恋敵の膝を堪能しているんですよ? しかもお姉さまったら恋敵のアシストまでしちゃって……それでいいんですかって聞いてるんです」
「いいもなにも……お嬢様の幸せが私の幸せだから……」
そう、これでいい。そりゃあ私だって大好きなお嬢様を独り占めしたいけど、それでもお嬢様がプリシラに恋をしている以上それをお助けするのが私の役目なのだから。
「でも、そろそろ本気出さないとまずいと思いますけどね~」
「そう……かな」
「そりゃそうですよ。だってプリシラってば私の見たところ、もう完全にクリスお嬢様に惚れてるじゃないですか」
「……だよね」
お嬢様は鈍いのか、それともプリシラが自分に好意を持ってくれてるなんて思ってもみないのか、もしくはその両方か。まだプリシラの気持ちには気付いていないようだ。
多分プリシラがお嬢様に恋をしたきっかけは……やっぱりあの縁談をぶち壊したときに、プリシラに愛の言葉を告げたことだろう。
『この子は誰にも渡さない』
『あなたのことを愛している』
『身分なんて関係なく、あなたと結婚したい』
……あれだけのことを、普段から凄く優しくしてくれている超絶美少女のお嬢様から言われたら、女の子が落ちないわけがない。しかもプリシラ、お嬢様のこと凄く好みのタイプっぽいし。
仮に私がそんなことを言われたら、もう気絶してしまうだろう。というかその時隣の部屋で漏れ聞こえる声を聞いているだけで、羨ましくて羨ましくて発狂しそうだった。
お嬢様に、たとえ演技とは言えあれほどの愛の言葉を言ってもらえるなんて……プリシラが羨ましくてしょうがない。
だってあのセリフは、私がお嬢様から言ってもらいたいことそのものだったのだから。
「まぁでも、お姉さまも頑張ればクリスお嬢様のお嫁さんになれる可能性もあるんですし、ファイトですよっ」
エルザはぐっと握りこぶしを作って、私を励ましてくれた。
……そう、その通りだ。
この子と知り合うまでの私では、例えお嬢様と結ばれても――お嫁さんになることはまず不可能だった。
平民の私では、次期公爵になられるお嬢様のお嫁さんになるなんて夢のまた夢、せいぜい妾として愛してもらうのが関の山だ。
いや、お嬢様に愛して頂けるなら妾でも身に余る光栄なんだけど、それでもお嫁さんと妾ではやっぱり……
「うんっ……! 私だって頑張ってるんだからっ……!! 私、絶対お嬢様のお嫁さんになりたいし……!!」
「うんうん、その意気ですよ、お姉さまっ」
毎週のデートの時も、私がお嬢様の妹なんかじゃなくて、1人の女の子なんだって意識してもらえるよう必死にアピールしてるし、部屋に2人でいるときも積極的にくっつくようにしている。
更にお風呂にも毎日一緒に入ってもらえるようにもできたし、一緒に寝かせてもらえる時も寝相が悪い振りをして抱きついたりと、懸命に私を意識してくれるように仕向けている。
その結果……かどうかは分からないんだけど、最近お嬢様の私を見る目が少し変わって来た、ような気がする。
具体的に言うと、私がメイドとしてお仕事をしているときも視線を感じるようになったし、デートの時もなんかこう……女の子として扱われてるなって思う時が多々ある。
何よりプリシラに対して明確に有利なのは、私がお嬢様と一緒に暮らしているという事だ。朝から晩までお嬢様と一緒にいられるんだから、この強みを生かさない手はない。
「それに、お嬢様と一緒にいた期間は私の方が長いんだから――」
「でもお姉さま? 一緒にいすぎるってことがかえって不利になることもあるんですよ?」
「え……?」
「だって、一緒にいることが当たり前になりすぎると、恋愛対象として認識されにくくなるって言いますよ?」
「そ、そうなの……?」
「ええ、そういうものらしいです」
な、なるほど……そういうこともあるのね。
「なので、これからはもっと積極的にアピールをしていきましょう、ね?」
「で、でも……」
これ以上積極的にと言われても、どうしたらいいのか……
「具体的には――そうですね、毎日『好き』っていいましょう」
「ふぇ……!?」
好き……!? で、でもそんな……!!
「そんなこと……」
「いえいえ、あくまでも自分がお仕えするお嬢様として、ごくごく自然に『好き』と言い続けるんです」
「……ふむ?」
「でも、たとえそんな感じの『好き』でも、毎日言われ続けたら……きっと意識しちゃいますよ?」
「そうかしら……?」
「そうですとも。ましてやクリスお嬢様は女の子しか恋愛対象にならないんですよね? でしたら効果はてきめんですとも」
「ううん……」
お嬢様に好き、好き……すっごく恥ずかしいけど……確かに効果はありそうだ。
「名付けて、好き好き作戦です」
「だ、ださい……」
「名前はいいんですよ、この際」
エルザは私の手を取って微笑んだ。
「私がクリスお嬢様のメイドになるためにも、お姉さまには頑張ってもらわないといけませんからねっ、よろしくお願いしますっ」
「はいはい、わかってるわ。そう言う約束だもんね」
そうね、この子のためにも、頑張らないとっ!




