第85話 にゃ~ん
「あ、あの……プリシラ……?」
「なぁに? どうかした?」
喫茶店を出てから私達は街をブラブラとしてデートの続きを楽しんでいたんだけど、その……何と言うか……
「い、いや、何でもないわ」
「そう? 変なクリスねっ」
プリシラが、凄く積極的なのだ。さっきの喫茶店でも私に肩を抱かれながら『あーん』をせがんできたり、間接キスをさせてきたり、今だってプリシラはニコニコとしながら――私と腕を組んでくれているのだ。
腕を組むとなると、必然的にプリシラのその豊かなものが私の肘にムニュリと押し付けられることになるんだけど、プリシラは全く気にした素振りさえ見せない。
ソラリスとのデートでソラリスが、『いいですか、お嬢様。プリシラがこうして来た時のためにしっかりと慣れておかないといけませんよ?』なんて言いながら、その豊かなものを頻繁に押し付けて来ていたけど――私は『まさかそんな事態が早々来るわけないだろう』と高をくくっていた。
でもそのまさかがこうして早々にやって来た。
危ない危ない、ソラリスの忠告が無ければ即死だったわ。
ああっ……それにしても、こうしてプリシラと腕を組んでデートできるなんて……
恋人繋ぎでデートしているときも最高だったけど、すっごく仲のいい女友達なら恋人繋ぎでデートくらいする……かもしれない。
けれどもこんな感じで腕を組むなんて、恋人関係以外の何物でもないんじゃないだろうか。いや、事実フリとは言え私とプリシラは付き合ってるってことになったんだけど。
「~♪」
何かえらく上機嫌なプリシラに、今ならもうちょっとだけ距離を縮められるんじゃないかなって思ってしまう。
「ねぇ、プリシラ」
「なぁに?」
「その……頭、撫でてもいい……?」
「頭?」
「え、ええ、あ、でもイヤなら別に――」
「いいわよ、それくらい」
「いいの!?」
ありえないくらいすんなりと許可を出してくれたプリシラに、私は思わず面食らった。
「ほら、どうぞ?」
「う、うんっ……」
私はゴクリと息を飲み、撫でやすいようにとプリシラが傾けてくれた頭に恐る恐る手を伸ばす。
夢にまで見た、プリシラの頭を撫でると言う行為、それが今、ついに――
さわっ
「んっ……」
撫でられたプリシラが、くすぐったそうに目を細めた。
なんて、なんて触り心地なんだろう……私は思わず何度も何度もさわさわとプリシラの頭を撫でる。
さわさわ、さわさわ、さわさわっ……
「も、もうっ……くすぐったいわっ」
そのたまらない触り心地の虜になっている私を、「いい加減にしなさいっ」と少しむくれた感じのプリシラが可愛くにらんできた。
「ご、ごめんなさいっ、あまりに気持ちよくて」
「んもうっ……まぁ、私も気持ちよかったけど……」
「えっ」
「ふふっ……でも不思議よね」
「な、なにが……?」
私からの問いに、プリシラはイタズラっぽい笑みを浮かべる。まるでネコみたいだ。
「だって、あんなに嫌っていたあなたに頭を撫でられて、心地よく感じるなんて……人の心って不思議だなって思ったのよ」
「プリシラ……」
私は、プリシラのその言葉に胸がいっぱいになって、思わず涙がこぼれそうになってしまった。
「ちょっと、座りましょ?」
私達は近くに会ったベンチに腰を下ろすと、プリシラは私にそっと寄り添って、肩に頭を乗っけて来た。
「え、えっと……?」
「もう、鈍いわねっ……その……もっと撫でていいわよって事よ。歩きながらだと危ないでしょ?」
「え、あ、うんっ!」
私はお言葉に甘えて、再びプリシラの頭に手を伸ばしてそっと撫でる。
「ふふっ……くすぐったいっ」
「プリシラっ……」
「私の頭撫でるの、好き?」
「好きっ!」
だって、ずっとこうしたいって思ってたんだから。何十年も、ずっと。
「そう、じゃあいっぱい撫でていいわよ」
プリシラに促されるまま、私はプリシラの頭の触り心地を思う存分堪能して……調子に乗ってその頬に手を当てた。
「んっ……」
それでもプリシラは抵抗らしい抵抗もせず、私にされるがままになっている。そしてそのほっぺたの柔らかさまで味わった私は、そっとプリシラの喉に指を這わせ……
「ゴロゴロゴロ~」
ネコにするように、喉を優しく撫でた。
「こ、こらっ……私はネコじゃないわよっ」
「だって、なんか今日のプリシラ、ネコっぽいなって」
「何よそれっ」
「ねぇ、にゃ~んって鳴いてみて?」
「え、えええ……?」
「ね、お願いっ、プリシラっ」
私はダメ元で頼み込む。ここまでプリシラが私に好きにさせてくれるくらい機嫌がいいなんて初めてだし、言うだけ言ってみようと思ったから。
「……んもうっ……しょうがないわねぇ……」
え!? いいの!? やったぁ――
「――あなたが先に鳴いてくれるならやってあげてもいいわよ?」
「ほぇ?」
思わず間抜けな声が出てしまった私に、プリシラがニンマリとほほ笑みながら、私にそっと手を伸ばしてきて――
「ほ~ら、ゴロゴロゴロ~」
「……!?!?!?!?!?」
喉を、優しく撫でてきた……!!
「ふ、ふぇぇぇ……!?」
「ほら、にゃ~んよ、にゃ~ん」
ぷ、プリシラから、ネコみたいに喉を撫でられている……!! あああっ……!! もう幸せっ……!! 私、このままプリシラのネコになりたいっ……!!
「ほら、早くっ」
このまま永遠に撫でられていたいと言う感情が沸き起こる中、私は小さく息を吸って――
「にゃ、にゃ~んっ」
ネコになった。
「ふふっ、可愛いっ」
プリシラはそんなネコになった私を見て満足そうにうなずくと、私の腕を取ってそっと自分の首に当てた。
「ほらっ、約束よ」
「え、あ、う、うんっ……じゃあ……ご、ゴロゴロ~」
私はプリシラからネコにされた興奮も冷めやらぬまま、その喉を優しく撫でると――
「にゃ~んっ」
~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!
世界一可愛いネコが、私の目の前に現れた。




