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第81話 お仕置きだからねっ

「お嬢様、ここなんですけど……」

「ああ、ここはね、この式を使って――」

「ちょっとクリス、ここ、どうするの?」

「あ、うん、えっと、ここはここをこうして――」

「お嬢様っ」

「クリスっ」

「ちょ、ちょっと待ってっ……!」


 私はソラリスとプリシラに挟まれながら、2人にお勉強を教えている……のだけれども、片方の質問に答えているともう片方もすかさず私に聞いてきて、まるで私を取り合うかのようになってしまい、お勉強は遅々として進まない。

 ソラリスはともかくプリシラはしっかりお勉強しないとまずいんだけど……!!


「――ちょっと? 今日は私がクリスにお勉強を教えてもらうように頼んだんだけど?」

「私だって、普段からお嬢様にお勉強を教えてもらっているんです~。それこそ10年以上お嬢様から教わってるんですから、今年からのプリシラ様とは違うんですよっ」

「んなっ……!」


 そんなプリシラとソラリスの2人は、私を挟んで言い争いを始めてしまった。


「私とお嬢様はすっごい仲良しなんですからっ。お風呂だって一緒に入ってお背中をお流しするんですよっ」

「嫁入り前でそんなの、ハレンチよっ……!」

「ハレンチもなにも、私、お嬢様のメイドですから。それくらいのご奉仕は当然ですよ。ね? エルザ?」

「はい、そうですね、お姉さまっ。お嬢様のお背中をお流しするのはメイドとして当然のご奉仕です」


 エルザさんは妹らしく、ソラリスの言葉を全面肯定する。いや、でも当然ってわけでもないからね? それ。一緒にお風呂に入らない主従もそれなりにいるって聞くわよ?


「それに、週2でデートもしてるんですよっ」

「わ……私だってこの前クリスとデートしたし……! ね?」

「う、うんっ」


 この前のデートは楽しかった……プリシラのあんな刺激的な水着姿も見れたし、おまけにお泊り、かつ添い寝……もう天国みたいなひと時だった。

 でもソラリスはそんなプリシラを見て、勝ち誇るようにふふんと胸を逸らした。


「私は、週2って言ったんですよ? もう私とお嬢様は今年6回もデートしてるんですからっ」

「6回……!? そ、そんなのずるいわっ……!!」

「おや~? 何がずるいんですか? プリシラ様?」

「な、何がって……その……」


 プリシラは、何とも言えない複雑な顔を浮かべた後……


「――ねぇっ」

「ひゃぅっ!?」


 私の腕にぎゅっと抱き着いて、その豊かなものを押し付けてきた……!! ちょ!? 何!? 何なの!?


「わ、私も、その……」

「え、ええ?」


 予期せぬ事態にほとんどパニック状態の私をよそに、プリシラは私のことを赤い顔で見つめてきた。


「私も……毎週デートしてあげてもいいわよっ……!!」

「ほぇ!?」


 プリシラさん!? 今なんて言ったの!?


「おやおや? プリシラ様もお嬢様とデート、したいんですか~?」

「べ、別にクリスとデートしたいってわけじゃないわよ!! ただ、あなただけ週2なんて不公平だって、ただそれだけっ! 週末は2日あるんだから、片方くらい譲りなさいよっ……!!」

「うぅん……そうですねぇ~」


 ソラリスは腕を組んでその立派なものを主張しながら、考え込む仕草を見せた。


「しょうがありませんね、では休みの片方はプリシラ様にお譲りいたしましょう。それでいいですね? お嬢様」

「え、あ、はい」

「じゃあプリシラ様も、これからはお嬢様と毎週デートをするってことで、いいですね? エルザさんが証人ですよ?」

「しょ、しょうがないわねっ……!!」


 何? 何がどうしてこうなったの? 訳が分からないんだけど? プリシラと毎週デートできる、そんな幸せがあっていいの? いや、ソラリスとのデートもすっごく楽しいんだけどね?


 そんなまだ混乱の極致にある私の耳元に、そっとソラリスが口を寄せて来た。


「――作戦成功です。お嬢様っ」

「え……? あ……!」


 そ、そうか、今日のソラリスは妙にプリシラに突っかかるなぁと思っていたら、なるほどこれを企んでいたのねっ。

 負けず嫌いで意地っ張りのプリシラにあえて自分がいっぱいデートをしていると見せつけることで、プリシラからの要求を引っ張り出したというわけね、やるわねっ……!! 流石はソラリスよっ!!


「まぁ、でも……プリシラがお嬢様に好意を持っていないと、こうはなりませんでしたけどねっ……」


 ソラリスはそう言うと、私の耳元からスッと離れた。

 ……え? プリシラが、私に好意? いやいや、そんなまさか。友達とは思ってくれてるみたいだけど、これはあくまでソラリスへの対抗意識としての結果だろうし。


「……何よ?」


 プリシラの方を向くと、なんともむくれたような、照れているような、そんな顔をしながら見上げて来た。


「え、いや、何でもないわよっ」

「そう? ならいいんだけど……」


 あの、でも、えっと……プリシラさん? まだ私の腕には柔らかい感触が当たったままなんですけど……

 私がそっと視線を肘の方に移すと、そこで自分がお胸を私に押し付けたままになっていることに気付いたのか、プリシラは慌てたように手を離した。


「ほ、ほら、続きしましょっ……!!」

「そ、そうねっ……!!」

「いやいや、お熱いですねぇ皆さん」


 エルザがニコニコと笑いながら、私達の前にお茶を出してくれる。


「そう言うエルザは一緒に勉強しないの?」

「ええ、私は大丈夫です。次の試験は問題ないかと」


 そう言われてみるとエルザも上位の常連だったような気がする。


「そういうわけなので、私のことは気にせずいっぱいイチャイチャしてください。私はそれを見て楽しませて頂きますのね」

「い、イチャイチャって……別にそんなのじゃないからっ」

「はいはい、プリシラってばそろそろ素直になった方がいいと思うけど?」

「あなたくらい自分に素直に生きてる子もそうそういないでしょうけどね……」

「その自覚はあるわ」


 あるのか。まぁ伯爵令嬢の立場でありながらこうしてソラリスの妹になるくらいの自由人だからなぁ。まぁ本人が幸せそうだし別にいいけど。


「さ、ほら、お勉強の続き続きっ、私が教えてあげてなお、赤点を取ったりなんかしたらお仕置きだからねっ」

「お、お仕置きって……私に何をする気なのっ」


 プリシラが頬を染めながら、ぎゅっと両腕で体を抱くように身構える。いや、何を想像した、何を。


「私としてはお嬢様からお仕置きして頂けるなら……その……赤点もアリかなって」


 こらこら、ソラリスまで何を冗談言ってるんだ。


「ダメよ、赤点なんて絶対許さないからねっ」

「はぁ~い」

「はーいっ」



 そして次の試験では、無事2人共赤点を回避した。なんか少しだけソラリスが残念がっていたのがアレだったけど。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いい感じですね! 唯一懸念する点はクリス様が萌え死ぬかも知らないことですね。
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