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第77話 やっぱりモヤっとする

「エルザさんがソラリスの妹になりたいって……どういうこと?」


 意味が分からない。確かにエルザさんは大のメイドマニアで、別荘に行った時もやけにソラリスと親しげにあれこれ聞いてはいたようなんだけど……

 それにしても妹って。伯爵令嬢がメイドの妹になるなんて聞いたことがない。


 だってこう言う言い方はアレだけど、エルザさんは奉仕『される』側の人間であって、決して奉仕『する』側の人間ではない。

 それでも趣味としてメイドをやるならまだしも、ソラリスの妹になりたいだなんて……趣味の域を超えていないだろうか?


 だってメイドにおける姉妹契約は、妹の姉に対する絶対服従が大原則になっているし、ソラリスが言う通り2人の間に恋愛感情が無かったとしても、契約を結べば事実上エルザさんはソラリスのものになってしまう。

 姉妹契約の解除は姉の側からしかできず、妹のエルザさんは姉であるソラリスの思うがままというわけだ。


「私が、どうしてもソラリスちゃんの妹になりたいってお願いしたんです」

「な、なんで……?」

「だって、ソラリスちゃんは幼いころから公爵令嬢たるクリス様の専属メイドに選ばれた、メイドの中のメイドですよ? 師として仰ぐのにこれ以上の相手は無いと思いまして」


 それは……確かに、ソラリスはとびっきり優秀で、何でもできる完璧超人と言っていいくらいだけど……それでも、姉妹になりたいって、あまりに発想が飛躍しすぎていない?


「それに、別荘でご一緒させて頂いたときにソラリスちゃんの仕事っぷりと人となりは見せていただきましたし、もうこの子しかいないと思ったんです」

「それで……その……どうしてもと頼み込まれまして、お嬢様にご相談を、というわけでして……」

「そ、そう……」


 とは言っても、貴族がメイドの妹になるなんて、そんなことが許されるんだろうか? 平民を下に見るつもりは全くないけれど、それでもメイドと貴族では立場が違うんだけど……


「でも、エルザさんはそれでいいの?」

「何がですか?」

「いや、ほら、立場とか……」

「ああ、そう言う事ですか、問題ありませんよ。だって過去メイドと姉妹になった貴族は稀ではありますけど、いないこともありませんし」

「そうなの!?」

「はい。一例としてはお姉さんのように慕っていた自分付きのメイドに恋をした貴族が、身分差で結婚自体は出来なかったものの姉妹契約を結んで生涯添い遂げた、ってのがあります」


 そ、そんなケースが……


「妹になったその貴族は、姉からきっちりと教育を受けて立派なメイドにもなったそうですよ。まぁこの契約はそもそもそう言う趣旨で結ばれるんですけど」

「偽装で姉妹契約を結ぶことは許されませんからね」

「そうなんだ……」


 メイドの世界も奥が深いと言うか何と言うか……


「つまり、エルザさんがソラリスの妹になることに問題は無い、ということなの?」

「はい。貴族制度とは一応別のところにありますから、この姉妹契約は」

「へ、へぇぇ……」

「それで、ソラリスちゃんの仕えるお嬢様であるクリス様に、ソラリスちゃんと姉妹契約を結ぶご許可を頂きたいと思いまして」

「え? 私の許可がいるの?」

「それはそうですよ、お嬢様。契約は必ず仕えるお嬢様の許可のもとに結ばれるんです」

「さっきの話みたいにお嬢様自身が妹になる場合とかは別ですけどね。だって自分自身に許可を出せますから」


 そんな決まりになっていたんだ……知らなかった。


「つまり、私が許可を出さないと姉妹契約は出来ないってことなのね?」

「そう、なりますね……」


 ううん……さっきソラリスは私とずっと一緒にいてくれるとは言ったけれど……やっぱり私にも独占欲というものがある。

 ここで私が首を横に振ればソラリスは妹を持つことが出来ず、私だけのソラリスという事は変わらないわけで……


「あの、お嬢様……」

「何? ソラリス」

「その……どうかご許可を頂けませんか? お願いしますっ……」

「えっ」


 ソラリスは懇願する様に私の手を握り、真剣そのものって目で見つめて来た。


「私の身も心も、人生の全てはお嬢様にお捧げすると誓います。だから……」

「み、身も心もって……」


 なんかそれ、愛の告白みたいな感じがするんだけど。なんかドキドキする。


「言葉通りの意味です。私はお嬢様のもの、そのことは一片も揺るぎません。だからどうか、エルザ様を妹に持つことをお許しください」

「そんなに、エルザさんを妹にしたい……の?」


 これは、この気持ちは何だろう。胸がチリチリとする。


「はい。どうしても、私はエルザ様を妹にしたいんです」

「そんなに……」

「で、でも、何度でも言いますけど、決して恋愛感情はありません。あくまでも弟子にするだけです」

「そうですよ、クリス様。私はメイドとして更なる高みに登りたいだけなので、ソラリスちゃんに恋愛感情は一切ありません。可愛いとは思いますけど」

「う、う~ん……」


 ソラリスの目は嘘を言っていない。長年付き合ってきたからそれはわかる。でも、何か言えないことがあるような、そんな感じもする。


「そこまで言うんなら……いいけど……」

「お嬢様っ……!! ありがとうございますっ……!」


 ソラリスは顔をほころばせると、私にギュッと抱き着いてきた。エルザさんを妹にできることがそんなに嬉しいんだろうか……なんかやっぱりモヤモヤする……何なのこれ。


「では、さっそく契約の儀式を行いましょう、ソラリスちゃん」

「はいっ、エルザ様っ」

「ふふっ……こうしてソラリスちゃんと呼ぶのも今日までね、これからは『お姉さま』と呼ぶんだから」

「そ、そうですねっ……」


 ソラリスが、なんかぎこちなく笑っている。


「それでその、お嬢様、契約の方法には2種類ありまして……」

「2種類?」

「はい。まず、誓いの言葉を述べるのは共通しているんですけど、その後が、その……」

「キスするんですよっ、クリス様っ」

「へ……?」


 キ、キス……!?


「ええ、一つ目は当然、口と口でする方法です。これは恋人同士のメイドなら必ずこっちですね――」

「だ、ダメッ!! そんなのダメっ!!」

「――とおっしゃると思ってましたので、もう一方の方で儀式をしようと思ってます」

「もう一方……?」

「はい。こちらは徒弟制度からスタートしたことに由来してますね。つまり――」

「足に、キスするんです……」


 足!? 足にキスするって!? そ、そんなの……!!


「椅子に座ったお姉さまの前に跪いて、足にキスをします。そうすることで、お姉さまに絶対服従を誓うわけですね」

「そ、それを……ソラリスにしたい、の?」

「はいっ。ぜひっ」


 エルザさんはきっぱりと言い切った。マジか、この人……


「他に方法は無いの?」

「ありません。口にするか足にするか、それだけです」


 その2択なら、足にして貰うしかないじゃない……だってソラリスが他の子とキスするところなんて絶対見たくないもの。


「…………じゃあ……足で……」

「わかりました。お嬢様っ」

「ええ、クリス様っ」


 私が許可を出すと、ソラリスは椅子に腰かけて生足をスッと突き出した。


「ではお嬢様、見ていてくださいね? お嬢様が証人になりますので」

「え、ええ……」


 なんかドキドキする……いけないものを見るような、そんな気分だ。


「では……」


 エルザさんはゆっくりとソラリスの前に歩み出て――その場で跪いた。伯爵令嬢たるエルザさんが、まさか跪くなんて……

 そんな私の動揺をよそに、エルザさんはとつとつと誓いの言葉を述べていく。


「――私、エルザ・グリーンヒルは、お姉さまに絶対の服従を誓います。どうか私のことを、一人前のメイドとして教育してください――」

「姉妹契約は、妹からは破棄できません。それでいいですね?」

「はい、お姉さまに全てを委ねます」

「……わかりました、では、誓いのキスを」

「はい、お姉さま……」


 エルザさんは突き出されたソラリスの足をうやうやしく両手で支えると、ためらいなくその甲に口づけをした――


「エルザ、あなたはこれで今日から私の妹です。これからよろしくねっ」

「こちらこそよろしくおねがいします、お姉さまっ……」


 手を取って微笑む2人を見て、私は何とも釈然としない気持ちになった。

 前の人生では全く無かった展開だし、恋愛感情が無いとは言えなんかやっぱりモヤっとするんだけど……

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― 新着の感想 ―
[良い点] このモヤっとから恋心に発展するのはいつなのでしょうかっ! クリス様!早く気づいて!!
[良い点] どうみても恋愛感情ありありなんだよなぁ……前世ではずっとプリシラの事を後悔してて余裕なかったんだろうけど今世ではさっさと自覚してどうぞ [一言] ソラリスとエルザさんは慌てまくりのクリスを…
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