第75話　このままずっとこうしていたい

「んっ……んんんっ……」

　窓の外から聞こえる鳥のさえずりで私は目を覚ました。プリシラと一緒に寝るなんて、絶対眠れないだろうと思っていたけど流石に2回目だったから、どうやら明け方辺りには眠りに付けたらしい。

　たぶん2時間も眠れていないはずだから本来なら寝不足を感じるところなんだろうけど、それ以上の幸福感に包まれている私には全然何でもないことだった。

　なぜならプリシラは寝ている間中ずっと私に寄り添うようにぴったりとくっついてきていたし、寝相の悪いプリシラは時折身じろぎしては私の腰や胸にその手を這わせてくれて、もう幸せってものじゃなかった。

　好きな子と、たとえ友達としてでもこうして一緒のベッドで寝られるなんて、幸せ過ぎて怖いくらいだ。友達としてでもこうなのだから恋人として、もしくは結婚して一緒に寝ることになったら私はどうなってしまうんだろう。たぶん気絶するんじゃないだろうか。

「んぅ……」

　私にしがみつくような形で寝息を立てているプリシラがもぞりと動くと、それに合わせてふわふわの金髪が私の目の前で揺れて、たまらない香りが鼻をくすぐる。

　その頭に手を回して優しく撫でてあげると、プリシラは「んにゅ……」とか言葉にならない寝言を漏らして、私の胸に顔をスリスリとこすり付けた。

「このままずっとこうしていたい……」

　本気でそう思った。

　それくらい幸せだった。プリシラがこうして私の腕の中にいるなんて、もう信じられない。まぁプリシラからしたら恋愛感情とかそう言うのでは全然無いんだろうし、ただ女友達と一緒に寝ているだけなんだろうけど。

　それでもプリシラから友達として認めて貰えたわけだし、これまでの努力が報われたんだと思うととても感慨深い。

　最初は無理やりデートしてもらって、勉強を教えて、お弁当を作ってあげて、それから別荘に遊びに行って……

　ソラリスにもいっぱい助けてもらって、ようやっとここまで来れた。とは言ってもまだまだやっと友達になれたくらいだけど、スタート地点が最悪だったことを考えると現状は大成功と言ってもいいと思う。

「プリシラ……」

　私は名前を呼びながら、また頭を撫でると――

「んん……ん……」

　プリシラがモゾリと動き――その目をゆっくりと開けた。

「あ……ご、ごめんなさい……起こしちゃった？」

「んぇ……？」

　どうやら完全に寝ぼけている。起きたと言うよりただ目が開いただけって感じだ。

「お、おはよう、プリシラ……」

「んんんっ……」

　挨拶をしても、朝が弱いらしいプリシラには届いていないようだ。こんなぽぇ～っとしたプリシラなんて普段絶対に見られないし、なんかもう、とてつもなく可愛い。思わず抱きしめてしまいたくなる。

　そんな抱きしめたいという己の欲望と戦いながらじっとプリシラを見つめていると、徐々にプリシラの目の焦点が合って来た。どうやら少しだけ起きたらしい。

「あれ……？　私……何であなたと一緒に寝てるの……？」

　起きてなかった。まだ絶賛寝ぼけているようだ。

「いや、昨日プリシラから『一緒に寝ましょう』って言ってくれたんでしょ？」

「そうだっけ……？」

「そうよ。だってその……友達と一緒に寝るくらい普通なんでしょ？」

「えぇ……？　そんなことないわよ……？　だって私……」

　プリシラはそこで「ぷぁ……」と可愛いあくびをした。大きなお口を開けたプリシラ、可愛いっ……！！

「友達の誰とも……一緒に寝たことないわよ……？」

「……へ？」

　え、あ、えっと……それって、その……つまり……どゆこと？

「この前あなたと一緒に寝たのが初めてだもの……くぁ……」

「え、じゃ、じゃあ、その……」

「………………すぅ……すぅ……」

「プリシラ……？」

　……また寝てしまった。

「え、えっと……つまり、その……ええええ？」

　頭が混乱する。ぐるぐる回る。こ、これは、その……プリシラが一緒に寝るのは私だけ……という事……？

　そんな馬鹿な……え、イヤでもさっき確かにそう言ってたし……でも、寝ぼけて全然違う事を言っていた可能性も……

　そのまま頭がぐちゃぐちゃになっている私をよそに、私の腕の中でプリシラは2時間以上眠り続けて……ようやっと目を覚ました。

「ふぁぁぁ……っ……よく寝たわ……おはようっ」

「お、おはよう……」

「どうしたの？　なんか変な顔してるけど……？」

　プリシラのせいなんだけどね？　でも「プリシラが一緒に寝たことあるのは私だけなの？」なんて恥ずかしくて聞けないし……

　どうしたものかと言いあぐねていると――

　くぅっ

　可愛い音が聞こえた。これは、えっと……アレよね？

「プリシラ……」

「な、何よっ……」

「お腹……空いたの？」

「……空いたわよっ、わ、悪い？」

　プリシラは顔を真っ赤にして睨みつけてくる。いやいや、何も悪くはないよ？それにしても朝から元気な胃袋だ。

「じゃあ、朝ご飯にしようか。作ってくるからプリシラはもうちょっと寝てていいから――」

「いいわよ、私も起きるわ」

「え、でも……」

「いいから、あなたがご飯作るとこ、見たくなったのよ」

「そう？　それじゃあいいけど」

　どういう風の吹き回しだろう？　普段から食べるだけだったのに。

「食べたらどうしよっか？　寮に戻る？」

「それでもいいけど……」

　プリシラはちょっとだけ考え込むような仕草をした後、私の手をそっと握って来た。

「――せっかくだから、街に遊びに行かない？　帰るのはそれからでもいいでしょ」

「えっと……つまりそれはその……デート継続ってことでいいの？」

「……ま、まぁ、そういうことになるかしらねっ」

　もじもじと肩にかかった髪の毛をいじりながら、プリシラが答える。

「プリシラっ……！」

「イヤ、かしら？」

「とんでもない！！　喜んでっ！」

　それから私達は、その日もたっぷりとデートを楽しんだ。2日連続のプリシラとのデート……幸せっ……