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第74話 お願いしますっ

「プリシラ、眠いの?」

「ええ……少し……」


 プールでプリシラに泳ぎ方を教えていたけどどうにもこうにも上手くいかず、結局プリシラが泳げるようになる、という目的は達成できなかった。途中からただの水遊びになっていたし。

 それでもプリシラとプールで遊び、お昼ご飯を食べ、また遊ぶという充実した一日を過ごせた他私は大満足だった。


 そしてプールで遊び疲れた私達は部屋に戻って札遊びをしたり、本を読んだりして時間を過ごした後、私が腕を振るってプリシラに晩御飯をご馳走した。

 それを綺麗に平らげたプリシラは食後のお茶の後、私にもたれかかかるようにしてコックリコックリと舟をこいでいる。

 普段運動なんて全くしないプリシラはすっかり疲れてしまったらしい


 それにしても……お眠なプリシラ、可愛いっ! それに私にもたれかかってくれるなんて、これはやっぱり友達って認めてくれたからなのかしら!

 ああ、もういつまでもこうしていたい……


「んんっ……でも、寮に戻らないと……」


 プリシラが眠い目を擦りながら立ち上がろうとするけれど、直ぐにペタンと座りなおしてポテリと私に体重をかけてくる。


「あ、あのさ、プリシラ……良ければ、何だけど……」

「なぁに……?」


 頑張れ!! 勇気を出すんだ私!! ここが攻め所だぞっ!!


「……泊っていかない?」


 言えた……!!

 私からの問いかけに、プリシラが眠気でとろんとした、何とも言えない色気のある視線を向けてくる。


「……泊る? って、ここに……?」

「ええ、外泊届は執事に届けさせるから……ど、どうかしら?」


 寮以外で外泊するときには、外泊届が必要になる。急な提出だけど、ねじ込めば何とかなるだろう。


「客間はいっぱいあるし、今から帰るのも大変でしょ? プリシラ相当お眠みたいだし」

「それは……まぁ……そうだけど……」


 こんな状態のプリシラでも馬車に乗せれば寮まで連れて行ってはくれるだろうけど、せっかくのデートなんだしどうせならお泊りもしたい。


「だから、ね? いいでしょ?」

「ううん……」


 眠くてあまり頭が回っていない感じのプリシラを、ここがチャンスとグイグイと押す。


「ね? ね?」

「……分かったわ。じゃあ、泊まらせてもらおうかしら」


 よしっ……!! やったっ……!! 私が心の中ではしゃいでいると、プリシラがじっと私のことを見つめて来た。


「どうしたの?」

「……その…………一緒に寝る?」

「え」


 ウソでしょ?


「だから、その……この前みたいに、一緒に寝る? って聞いてるのよ」

「えええええ!?」


 い、いいの!? ホントに!?


「いいの!?」

「別にいいわよ……今日は楽しかったし……友達と一緒に寝るくらい、別に普通でしょ?」


 普通かなぁ!? 私とソラリスは親友だけど、別にそんな一緒に寝てないよ!? たまには一緒に寝てるけど。


「じゃ、じゃあ……お、お願いしますっ!!」


 まさかこんな展開になるなんて思いもよらなかったから、思わず敬語になってしまった。

 じゃあとりあえず寝る準備をしないとね……!! 私はテーブルの上のベルを鳴らして、館の使用人を呼び出した。


「お呼びですか? お嬢様……あらあら、まぁまぁ」


 やって来た年配のメイドは、ぴったりとくっついている私達をみて目を細めた。


「えっと……この子をお風呂に入れてあげてもらえるかしら?」

「はぁ、それは構いませんが――」


 年配のメイドがそこでにんまりといたずらっぽく笑う。


「どうせならお嬢様がお風呂に入れてあげるというのはいかがですか?」

「え……!?」

「だってそんなに仲睦まじそうに寄り添ってるんですし、ねぇ?」


 いやいやいや!! これは寄り添ってるんじゃなくてプリシラがほとんど寝落ちしているだけだから!! その証拠にさっきから返事が無いし!!


「そ、そんなのダメよっ……!!」

「はぁ、そうですか?」

「そ、そんなはしたないこと、できないわっ……!!」


 プリシラと一緒にお風呂だなんて、最近ではソラリスと一緒に入るのでさえ恥ずかしいのにプリシラと一緒にお風呂に入ったりなんかしたら間違いなく湯船に浮いてしまう。ぷか~っと。


「まぁ、お嬢様がそうおっしゃるのでしたら」


 メイドはそう言うと、手慣れた手つきでプリシラに肩を貸してひょいと立たせた。当のプリシラは眠たげに目をこすっている。


「ではお嬢様、このお嬢さんを隅々まで綺麗にしてお部屋までお連れいたしますね?」


 何か誤解……いや、多分そういう誤解をしているんだろうけど、年配のメイドはパチリとウインクをしてみせた。

 いや、違うからね? そう言うんじゃないから。まだ、全然、だって私達まだお付き合いどころか婚約もしてないし、キスもしたことないんだもの。



 それから私もお風呂に入り、自室のベッドに腰かけながらドキドキとしていると……部屋の扉がキィと音を立てて開き――


「プリシラっ……」


 寝間着姿のプリシラが、まだ眠たそうにしながら部屋に入って来た。

 お風呂上りでまだしっとりしている髪と、薄桃色の寝間着姿が猛烈に可愛い。


「えっと……お風呂、どうだった?」

「いいお湯だったわよ? 人に体を洗ってもらうってのもいいものね」

「そ、そう」


 確かに私もソラリスに体を洗ってもらうの、結構好きだし。


「それにしても……やけに丁寧に洗ってくれたけど、普通ああいうものなのかしら?」

「さ、さぁ~? ど、どうかしら」


 自分付きのメイドを持たないプリシラには、普通というものがよくわからないらしい。でも多分、あのメイドが気を利かせてくれたんだろうけど……それ誤解なのよねっ。

 私達を『そう言う関係』だと思ってるんだろうけど全然違うのっ! まぁその、友達ではあるんだけどっ!!


「じゃ、じゃあ、その……ね、寝ましょうかっ……」

「そうね、もう眠くて眠くて……」


 プリシラはそう言いながら、私にペタペタと近づいて来ると――私の手をぎゅっと握った。


「……!!!!」

「さ、寝ましょ?」


 そして私はプリシラに手を引かれ、同じベッドへと入ったのだった。生涯二度目となるプリシラとの添い寝……!!


「おやすみ……クリス……」

「お、おやすみ……!! プリシラっ……!!」


 お互いにおやすみの挨拶をした後、プリシラは早々に寝息を立て始めた。どうやら本当に眠かったらしい。

 一度目は緊張のし過ぎでよく眠れなかったけど、今回はどうかしら……そんなことを考えながら、私は隣で可愛い寝息を立てている愛しいプリシラの顔を見つめ続けた――

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