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第73話 私の名前

 プールサイドを2人で手を繋いで歩きながら、私の視線はさっきからプリシラのお胸に吸い寄せられていた。

 改めて見てもやっぱり大きい。服の上から見ていても大きいのが分かっていたし、サイズもソラリスが毎月調べて来てくれるから正確に知っているけど、それでもこうして直接見るのとデータではその迫力が大違いだ。


 前回の人生では『この時のプリシラはこれくらいの大きさで、身長はこれくらいで体重は――』なんて、当時のプリシラに想いを馳せながらプリシラノートをめくる事しかできなかったのに、それが目の前にあるなんて……!!


 しかも歩くたびにゆさゆさ、ゆさゆさと大きく揺れている……!! もう、最高っ――


「――ねぇ」

「ひゃぅっ!?」


 またしてもお胸をチラ見しようとしたところに声をかけられて、私はビクンと跳ねてしまった。

 プリシラは赤い顔をしながら、恥ずかしそうにスッと胸を覆い隠す。え、あれ、その反応、もしかして……見てたのバレてた?


「その……あんまり胸ばっかり見ないでよっ……恥ずかしいんだけど」


 バレてた――!!


「気付いてたの!?」

「だってさっきからあなた、私の胸チラチラ見てたでしょ……? そりゃ気付くわよ……」

「ご、ごめんなさいっ……!! あんまり大きいから、つい……」

「もうっ……えっちなんだから……」


 プリシラが、恋人繋ぎをしていない側の手できゅっとつねって来た。


「それに、これくらいあなたにとっては別に珍しくも無いでしょ?」

「なんで?」

「だってその……私の胸、確かに大きいけど……あなたの可愛いメイドには完全に負けてるし……」

「ああ……」


 それはまぁ確かにその通りだけど。


「でもそれはソラリスが大きすぎるからであって、プリシラのもやっぱり大きいわよ。私と比べたら特にね」


 自分で言ってて悲しくなるけど、事実だからしょうがない。


「ホントにあの子って大きいわよね……あんな可愛い童顔に小さな体、それであのサイズってほとんど反則よ」

「反則って」


 何に対して反則なのか。

 でも、ソラリスが可愛すぎるってのは同意する。だって毎週末のデートが楽しみでしょうがないし。最近はいろんな服を買ってあげて着せ替え人形的に遊ぶのがマイブームだった。

 それはそうと――


「プリシラ、ダメでしょ?」

「え? 何が?」

「前にプリシラ自身で言ったでしょ? 『デートをしている間は他の女の子のことを話題に出しちゃいけない』って」

「あっ……そ、そうねっ、胸の話になったからつい」


 プリシラが肩から垂れている髪を手でモジモジといじった。


「私は今、あなたとデートしてるんだもんね」

「そうよっ」

「ごめんなさい……でもそれはそうと、やっぱり胸から視線は外さないのね……そんなに、大きい胸が好きなの?」


 大きなお胸が好きと言うより、好きな子だから見たいって感じなんだけど。もちろん私的には大きい方が好みだけど。


「だ、だってぇ……あんまりにも揺れてるんだもん! 見るなって方が無理でしょ!? どうしたらそんなに大きくなったの!? 教えて!!」

「いや、あなたは今からじゃもう無理――」

「いいからっ!」

「そう言われても……特に何もしてないわよ? よく食べてよく寝る、これくらいかしら」

「そんなことしたら太っちゃうでしょ!?」


 私、ただでさえ体重には気を使ってるのに!!


「私は全然太らないけど」

「うぎぎ……世の中不公平よっ」


 そう言えばソラリスもあんまり運動はしないしそこそこ食べる。やっぱりそれが秘訣なんだろうか。食べた分だけお胸に行ってる……? そんなのアリ?



 それから軽く準備運動を済ませて、私達は浅い方のプールへと入った。ちなみに準備運動でも運動音痴のプリシラは悪戦苦闘していた。どんだけだ。


「手、離さないでねっ……!!」


 驚くべきことにプリシラは水に顔を付けるくらいはできた。てっきりこれもできないと思っていたのに。

 そこで私はプリシラの両手を握ってあげて、引っ張るような形で泳ぐ練習から開始することにした。本当はプールサイドを掴ませてもいいんだけど、それに気付かれてはいけない。だってそうしたら私が手を掴めないし。


「わかったから、離さないから安心して」


 足が付く深さだと言うのに、私の両手を掴んだプリシラの目は真剣そのものだ。まぁ超の付く金づちのプリシラからしたら水に入っているという、この状態だけでも十分に怖いんだろうけど。

 ちなみに私としては痛いくらい両手をぎゅっと掴まれて、幸せいっぱいだ。


「ほらプリシラ、体を浮かせて足をパチャパチャしてみて?」

「そ、そんな難しいことできないわよっ……」

「そんな難しくないから。えっと、ほら、ふわっと……ね?」

「そんな抽象的に言われても分からないわっ」

「しょうがないなぁ、それじゃあお手本を――」

「だ、ダメッ!! 離さないでっ!!」


 手を離してお手本を見せようとした私を逃がすまいと、プリシラが恋人つなぎになっている両手にさらに力を込めて来た。ちょっと痛い、けど幸せ……!


「でも、これじゃあずっと手を繋いでるだけよ?」


 私としては全然それでもいいんだけど。プリシラと仲良くお手々を繋いで水遊び……天国かな?


「そ、そうなんだけど……」

「泳げるようになりたいんでしょ?」

「え、ええ……」

「じゃあほら、勇気を出して体を浮かせて?」

「でもっ……」

「私を信用して…………と言っても無理か、私じゃあ」


 まだ友達にさえなれてない私なんて、プリシラが信用してくれるはずも無いし――


「そんなことないわっ」

「えっ?」

「だってあなた、とても優しいもの……風邪をひいた私のことを、うつるかもしれないのに献身的に看病してくれたし……」

「プリシラっ……」

「だから……」


 プリシラは私のことをじっと見つめてくる。手も当然繋いだままだ。


「――私、あなたのことは信用してるわ」

「……!!!!」


 プリシラが……!! 私のことを信用してくれるって……!!


「そ、それにその……」


 プリシラは、恥ずかしそうに顔を逸らしながらごにょごにょと口を動かした。


「……と、友達なんだし……信用するのは当然でしょ……?」

「え」


 今、何て言ったの……? プリシラ、私のことを……


「と、友達……?」


 聞き間違い、それとも――


「ええ、そうよ……私は、もうあなたのことを友達だと思ってるわ……」

「ほ、ホント……? ホントにホント……?」

「ウソなんかつかないわよ。それに、その……友達だと思っていなければ泳ぎ方を教えてもらおうなんて思わないし、デートもしないわよ――」

「プリシラぁぁっ……!!!!」

「わぶっ……!!!!」


 感極まった私は、手を振りほどいてプリシラに抱きついてしまう。私の平らな胸でプリシラの豊かなそれが盛大に潰れ、そしてその勢いのまま水中に押し倒してしまった。


「――あっ」


 そのことに気付いた私は慌ててプリシラを抱き起す。


「ごぼっ……!! げほっ……!!」

「ご、ごめんなさいっ……!! あんまり嬉しくて……!!」

「ぢょ……ば、バカなのっ……!! げほっ……!!」


 私に水中から助け出された――とは言っても水中に叩き込んだのは私だけど――プリシラが苦しそうに咳き込む。


「友達に泳ぎを教わりに来て水に沈められるなんて、冗談じゃないわよっ……! わたし泳げないからここにいるんだけど……!?」

「また、友達って……!!」


 プリシラから友達だと言ってもらえる。こんなにも幸せなことが私に起きていいんだろうか。今日は生きて来た中で1番幸せな日ね……!!

これで何度目の1番の更新か分からないけど、私の幸せはプリシラ絡みがほとんどなのだから仕方ない。


「…………ああ、もうっ……そんな嬉しそうな顔されたら、もう怒れないじゃないっ……」


 プリシラは私の腕の中で苦笑した。


「そろそろ離してよっ、泳ぎ方、教えてくれるんでしょ? ……クリスっ」

「………………えっ」


 今、プリシラ、私の名前……


「こら、クリス、どうしたの?」


 プリシラは、今度ははっきりと私の名前を呼んで、いたずらっぽく私の鼻をチョコンとつついてきた。


 たった今更新されたはずの1番はまた更新され、私は嬉しくて嬉しくて――


「プリシラぁぁぁぁぁっっ!!!!」

「わぶっ……!! ごぼぼぼぼぼ!?」


 再びプリシラを水の中へと連れて行ってしまい、その後しこたま怒られたのだった。

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