第70話 スタートから最高すぎる
「プ~リシラっ」
遂にプリシラとデートの日がやって来て、私はプリシラの部屋の前で扉をノックした。
物で釣ったでもなく、別荘に遊びに行ってからのついででもなく、ついに正式にプリシラとデートが出来るなんて……私は高鳴る胸を押さえつつ、プリシラが出てくるのを待つ。
街で待ち合わせをするのもアリかなとは思ったんだけど、プリシラと一緒にいる時間を一分一秒でも長くしたかったから、私が部屋まで迎えに行くってことで押し通した。そもそも一緒に朝ごはんを食べる約束だし。
扉が開くまで時間にして一分もかからなかっただろうけど私にはとても長く感じられた。そしてついに扉が開いてプリシラが顔を出す。
「お、おはよっ、プリシラっ」
自然に挨拶できただろうか。どうしても胸がドキドキして、上手くできたか自信が無い。
「おはよう」
そして挨拶と共に出て来たプリシラは――いつも以上に可愛かった。だってプリシラってば、普段の私服よりぐっとおしゃれをしていたんだもの。
「今日のプリシラ、いつもより可愛いわっ」
「だって、今日はデートなんだから、その……おしゃれするのも当然でしょ?」
「でも初めてデートした時より今の方がずっと可愛いって言うか……」
「そりゃあ……あの時は、その……正直言ってイヤイヤだったし……」
「あ……そう……よね……」
改めて言われるとへこむけど仕方ない。だって私達の仲が最悪って時に、演劇のチケットという切り札を使って無理やりデートしてもらったんだし、気合も入らなくて当然よね……
そんなことを考えていると、そこでプリシラがふっと笑みを浮かべた。
「――でも、今日はイヤイヤじゃないわよ」
「えっ?」
私の聞き間違い? 今、イヤじゃないって……!!
「だから、その……私も少しは楽しみにしてたってことよ、今日のデート」
「プリシラっ……!!」
私はすっごい楽しみにしてたけどね!! 昨夜なんてあんまり眠れなかったくらいだし!!
「あ、あくまでも少しは、だからねっ!! 凄く楽しみにしてたってわけじゃないんだから!」
プリシラはそう言うとプイと顔をそむけてしまった。
でも、私この表情のプリシラが特に好き。こっちを向いてる可愛いほっぺをぷにっと指でつつきたくなってしまう。さすがにまだつつけるほどの仲じゃないけど、もっと仲良くなれたら一日中でもつついていたいって思うくらい。
「……ほら、手、出しなさいよっ」
プリシラはやや赤い顔をしたままこちらを振り向くと、私に手を出すように言って来た。これって、つまり……
「え? いいの?」
手を、繋いでくれるって事よね? 前の別荘でのデートでも手を繋いでくれていたけど、プリシラって結構サービス精神旺盛なのかしら?
「だって、あなた手を繋ぐの好きなんでしょ? だから、別にいいわよっ」
「うんっ……!! 好きっ……!!」
今の好き、にはプリシラのことも好きって気持ちも込めたけど、そのことは口には出せない。
「じゃあ……はいっ」
私がお言葉に甘えて右手を差し出すと――プリシラはなぜがそこでじっと私の手を見つめた。
「プリシラ?」
「…………」
そして、そのまま考え込んだ感じのプリシラが、私の伸ばした右手をスルーしてゆっくりと私の左手側に周り――
「ふぇ……!?」
きゅっと指と指を絡ませて、私の左手を握って来た……!! こ、ここここ、これって……!!
「ぷ、ぷぷぷ、プリシラ!?」
「何よ……私、見ちゃったんだからね?」
「な、何を?」
思わず興奮で声が裏返ってしまう。
「――あなたとあの子がこうして手を繋いでデートしてるのを、よ」
「あの子って……ソラリスのこと?」
「そうよっ、最近よくデートしてるみたいじゃない」
確かにここのところ週末になるとデートしていたし、寮に帰ってくるときも恋人つなぎだったり腕を組んでたりしてたので、そりゃ見られもするよね。
「まぁあなたほどの大貴族なら、女の子をとっかえひっかえしても全然許されるんでしょうけどっ」
確かにいわゆる上級貴族と呼ばれる中には恋多き人も多いから、色々と浮名を流している人も多いけど……!! でも私は違うわっ!
「ち、違うわよっ、誤解よ!? 私、デートしたことあるのプリシラとソラリスだけだもの!」
「ふぅん? そうなんだ? ……ちなみに私がデートしたことあるのはあなただけだけどねっ」
その言葉に、私はとてつもない優越感を感じた。プリシラがこの世でデートしたのは私だけ……!! なんて素晴らしいんだろう……!!
「そうなんだ……えへへ……」
「何でそんな嬉しそうなのよ……まぁでも、あの子がこうしてるんだったら、別に私がしたっていいでしょ?」
プリシラはそう言うと、私とつないだままの手をブラブラと振って見せた。
「い、いいも何も……!!」
こんな、プリシラと恋人つなぎができるなんて……!! しかも、プリシラの方から……!! もう幸せ過ぎるっ……!! これだけで今日のデートは満点決定よっ!
「さて、それじゃあ朝ご飯を食べに食堂へ行きましょ? ご飯、作ってくれているんでしょ? 私お腹すいちゃったわ」
まだ朝だけどね。でもプリシラは朝からよく食べるからなぁ。
「それは勿論よ。お昼のお弁当も用意してあるわっ」
「それは楽しみね、ああそれと――」
私の手を引いて食堂へと歩き出していたプリシラが立ち止まり、私にイタズラっぽい笑みを浮かべて繋いだままの手を持ち上げてみせた。
「私の右手、今使えないから――朝ご飯は全部あなたに食べさせてもらおうかしら?」
「プリシラっ……!!」
そしてその言葉通り、プリシラは右手を私の左手につないだまま、私からの『あーん』で大量の朝ごはんをぺろりと平らげたのだった。
もうスタートから最高すぎる……!!




