表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/115

第65話 恋人役

「はぁ……デート、したいなぁ……」

「お嬢様?」


 夏休みも終わり、放課後に自室でだらんとしていた私の口から願望がポロリと零れた。


「デートって、その……プリシラと、ですか?」

「そうよ」

「そう、ですか……」


 夏休みの間中も、そして学校が始まってからもプリシラにご飯を作ってあげていて、プリシラと一緒に過ごす毎日はとても楽しかったけど……こうなると人間、欲が湧いてきてしまう。

 思えば2人っきりで遊んだのは別荘に行ったっきり、それ以降は特にこれと言ってお出かけとかはしていなかった。いや、それも当然なんだけどね……だって私達、まだ全然付き合ってもいないんだし。


「じゃあ、誘ってみたらいいんじゃないですか?」

「え、で、でも……また前みたいにチケットで釣るの?」

「いやいや、今のプリシラなら…………多分、誘ったら来てくれますよ」

「そうかなぁ……」


 確かに私とプリシラの仲は縮まってきていると言う実感はあるけれど、それでも何もなしでデートに誘ってもうなずいてくれる自信が無い。

 前の別荘でのデートは、その、リゾート地の雰囲気が味方してくれたんだと思うし。


「でもあれから、お嬢様はプリシラが風邪をひいたとき献身的に看病してあげたじゃないですか」

「それは、そうだけど……」

「あれだけお嬢様が尽くしてあげたんですよ? きっとプリシラはもうお嬢様にメロメロに決まってます……!!」

「め、メロメロって……」


 とてもそうは思えないんだけど……今日もご飯を作ってあげたときも至って普通だったし。


「お嬢様からあんなに手厚く看病して頂けるなんて……なんて羨ましいんでしょう……」

「いや、ソラリスが風邪をひいても同じようにしてあげるわよ?」

「えっ?」

「いや、え? じゃなくて、あなたが熱を出したら、私が看病してあげるのは当然でしょ?」

「お嬢様っ……!! そんな、勿体ないお言葉ですっ……!!」


 大げさねぇ。だってソラリスは私の大切な妹みたいなものなんだから、妹が風邪を引いたら献身的に看病するなんて当たり前じゃない。


「だから、安心して風邪をひいていいからね?」

「ではお嬢様が風邪をおひきになったら、私が全身全霊を込めて看病いたします!」

「期待してるわっ」


 それから私達はお互いに笑い合った。


「まぁでも、実際のところ……プリシラって、お嬢様に看病されたあたりから、こう……何と言うか、柔らかくなりましたよ?」

「そう?」

「そうですよ。そばで見ている私にはわかります。だって、ご飯の時もプリシラ、自分から『あーん』ってするようになってますし」

「そう言われてみると……」


 確かに、あれ以来プリシラが、何かこう……甘えてきているような感じがするのよね。

 態度そのものは相変わらずツンツンしてるんだけど、少しだけ、距離が近くなったと言うか……


「だって看病する前と後で、お嬢様との距離が椅子4分の1くらい近くなってるんですよ?」

「こ、細かいわね……」

「はい、だって毎日見てますから……」


 そっかぁ、私では気づかなかったけど、そういうものか。


「という事で、今度デートに誘っちゃいましょう!」


 何がという事で、なの!? いきなりハードル上げないでよ!! それに、その……


「で、でも私……」

「――デートなんてほとんどしたことないから自信が無い、ですよね?」

「なんでわかるの!?」

「お嬢様の考えてることなんてお見通しですっ」


 ソラリスの言う通り、プリシラが私とのデートが初デートだったように実は私もあれが初デートだった。なので改めてデートに誘おうにも、何をどうしたらいいんだろう。

 前回はソラリスにデートコースとかを全部任せてあったから何とかなったけど、これから先も全部ソラリスに頼るというのも何とも情けない感じがするし……


「その、自分でもプランを考えてみたいんだけど、どうしたらいいかわからなくて……」

「私に頼ってくれてもいいんですけどねぇ……でもまぁその意気込みは買いましょう」


 ソラリスは腕を組みながらウンウンと頷いた。


「つまり、お嬢様に足りないのは経験というわけです」

「そうね……」


 経験は前回のデート一回こっきりしかない。どこをどうやればいいのか、さっぱりわからないのだ。


「という事はですよ? その……デートを重ねれば、おのずと慣れてくるというわけです」

「いや、でも……失敗したくないし……」


 プリシラとデートはしたいけど、がっかりもさせたくない。私の考えたデートプランで、面白かったって思って欲しいんだけど、でもその自信は全く無いわけで……


「では……その……私に考えがあるのですが……」

「えっ、何々?」


 ソラリスはオホンと1つ咳払いをすると、私のことを真剣な目でじっと見つめながら口を開いた。


「この不肖ソラリス……お嬢様の練習台になりましょう!」

「練習台!?」

「そうです! お嬢様がプランを考えてプリシラとデートをする、その予行演習として私を使って下さいっ!」

「え、それはつまり、その……」


 ソラリスとデートする、ってこと? そう言えばソラリスとは何度もお出かけしたことはあるけど、デートって形ではしたことなかった気がする。


「プリシラとする予定のデートコースの下見を私相手にして頂いて、その結果をふまえたら失敗は少なくなりますよね?」


 確かに、それはその通りだと思うけど、下見にソラリスを付き合わせるのも悪い気も――


「あっ……でも私なんかが恋人役なんて、やっぱり分不相応にもほどがありますよね……」


 ソラリスはそう言うと、しゅんとしてしまった。


「そんなことないわよ!! 分不相応とか、そんなことを言うものじゃないわ!!」

「お嬢様っ……!」

「あなたは身分とかそんなこと関係なく、私の大事なお友達なんだから……! 胸を張りなさいっ」

「……!! は、はいっ!!」


 私が肩をポンポンと叩いてあげると、ソラリスはにっこりとほほ笑んでくれた。


「――では、私と予行演習をしていただくという事でいいんですね?」

「え……? あ、そ、そうね」

「ありがとうございます!! 私、頑張って恋人役を務めますねっ!!」


 んんん? なんかそう言う事になったらしい。まぁいっか。ソラリスとのデートとか初めてで、何か楽しそうだし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あぁ^〜 いい [一言] そのまま夜の練習もしろ(百合過激派)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ