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第54話 ソラリスのえっちっ

 ソラリスに着替えさせてもらった私は、ソラリスと一緒に食堂へと向かっていた。食堂ではこの別荘の管理人が朝食の支度をしていて、その証拠にパンの焼ける香ばしい香りが漂ってきている。

 でも今の私は、その香りを楽しむどころでは無かった。だって、朝からあんな恥ずかしい思いをさせられたのだから。


「もうっ……ソラリスのえっちっ……」

「何がですか!?」


 隣を歩くソラリスが驚いたような顔をしている。


「だ、だって……私の服を脱がせて、裸にしたでしょ……?」

「いつもの朝のお勤めですけど!?」


 自分でも何を言ってるのかよく分からないけど、普段からソラリスに着替えさせてもらっているはずなのに、今日は何故か猛烈に恥ずかしかった。

 あまりに恥ずかしくて、脱がされたときに思わず前を隠してしまったほどだ。


「子供の頃から今まで、ず~っと私が着替えさせて頂いてるじゃありませんか。今更何をおっしゃってるんですか……?」

「そ、そうなんだけどっ……」


 そのソラリスの言葉通り、私は着替えに際して手を上げたり片足を上げたりするくらいで、自分から服を着たことは全く無かったと言っていい。ブラだって自分で付けたことも無いから付け方さえ分からないほどだ。


 でもそうなると、これからも毎朝毎夜とソラリスに服を脱がされる日々が続くわけで…そのことを考えると、やっぱりたまらなく恥ずかしくなってしまう。

これまで何ともなかったと言うのに、私は一体どうしてしまったんだろうか。


「とにかくっ……ソラリスはえっちだわっ……!」

「わけがわかりません!!」



 私達がそんな話をしながら食堂に近づくと――プリシラとエルザさんが話している声が聞こえてきた。


「――だ、だから、違うって言ってるのにっ……!!」

「またまたぁ~、照れちゃってぇ。昨夜はクリス様にいっぱい可愛がって頂いたんでしょ? ほら、首筋にキスマークが……」

「そんなの無いわよっ……!! それに可愛がってもらっても無いわっ!!」

「え? じゃあプリシラが可愛がる方なの? 意外ね~?」

「そう言う意味じゃないわよ!?」


 2人は口喧嘩をしている……というよりは、エルザさんがプリシラのことを一方的にからかっていた。


「え~? でもプリシラ、さっきクリス様の部屋から出てきたでしょ? アレはどう説明するのかな~?」

「だ、だからそれは、その……!!」


あっ……プリシラ、私の部屋から出てくるところをエルザさんに見られていたんだ……


「た、確かに一緒に寝はしたけど……!! そ、それは、その……札遊びをしていて眠くなってそのまま寝ちゃって……それだけで……」

「え~? それ、言い訳にしても苦し過ぎない?」

「うっ……」


 ……うん、まぁその、私もその言い訳は苦しいと思ってた。だって隣のソラリスも「……ですよねぇ」って疑いの眼差しを向けて来てるし。

 でもまさかトイレに連れていってもらったという真相を言うわけにもいかないし、プリシラは完全に詰みの状態だった。


「まぁでも愛しい人とは毎晩でも共に過ごしたいって気持ちはわかるけど……プリシラも貴族なんだから、婚約前にはほどほどにねっ」

「だから違うんだってばっ……!!」


 私のことを話していると思うと、ちょっと入りにくい……でも、女の子だもん、恋の話が大好きなのは仕方ないわよねっ。それがキワドイ内容ならなおさらだ。


「あの……お嬢様っ、そろそろ……」

「そ、そうね」


 そうは言っても、そろそろ朝ごはんの支度をしないと。私達は2人の話が聞こえなかった振りをして、食堂へと入っていった。


「お、おはよう、2人共っ、早いのねっ」

「あ、おはようございます、クリス様っ」

「お……おはようっ」


 プリシラとはついさっきまで会ってたけどねっ。というか夜中一緒だったけど。


「さて、それじゃあご飯の準備をするわね、ちょっと待ってて」


 私はエプロンを片手に、ソラリスと厨房へと向かう。管理人にパンだけは焼いてもらっていたけど、後は私に任せるよう言ってあったのだ。

 だってプリシラに私のご飯食べさせてあげたいし。


「いやいや、クリス様の手料理を朝も頂けるとは……なんて贅沢なのかしら。ねぇ、プリシラ?」

「そ、そうねっ」

「だって、3食作ってあげるって約束したから、ねっ、プリシラ?」

「本当に嬉しいわっ、だって私……あなたの料理が世界で一番好きだもの」

「……!!」


 もうプリシラは、私の料理に関しては称賛を隠そうともしない。そこが好き……!!


「朝からご馳走様ですっ……!! いやいや、お熱いお熱い……!!」

「しょうがないでしょ、事実なんだからっ!! エルザだって美味しいと思うでしょ?」

「そうね。クリス様の腕は間違いなくこの国の中でも5本の指に入ると思うわ」

「エルザさんにまでそう言ってもらえると、嬉しいわっ」


 私は料理の準備をしながら答える。伯爵令嬢で美味しい料理を食べなれているであろうエルザさんにも保証してもらうと、やっぱり嬉しいものだ。


「――それで、今日の予定はどうしましょうかしら? どこか行きたいとこはある?」

「えっと……それなんだけど……今日もボートに乗りたいんだけど……」

「プリシラ、ボートが気に入ったの?」


 ちょっと意外。プリシラってば運動系全然ダメなのに。道を歩いていたら転ぶし、森を歩けば迷うしで、もう誰かが付いていてあげないとダメな感じがまた可愛いんだけど。ぶっちゃけ私よりよっぽどお嬢様らしいと言うか。


「せっかく教えてもらったんだもの……! 今日は私が1人で漕いで見せるんだからっ、ちゃんと目の前で見てなさいよねっ!」

「クリス様、プリシラが『あなたと一緒に乗ったボートが楽しかったのでまた2人で乗りたいわっ』って言ってますよ」

「そんなこと言ってないでしょ!? 勝手に翻訳しないでよ!!」

「まぁまぁ、プリシラってば素直じゃないんだから~」

「もうっ……!!」


 ぷりぷり怒っているプリシラ、可愛いなぁ……と思いながら食堂から聞こえてくる声を聞いていると――隣でソラリスがシュンとしているのに気が付いた。そしてソラリスの手にしたフライパンからは煙が――


「ちょ、ソラリス、焦げちゃうっ!」

「え、あっ……!!」

「間一髪だったわね、それより、どうしたの? 元気ないけど」


 どうも昨日からソラリスの様子がおかしい……いや、私も何かおかしいけど。ソラリスに着替えさせてもらって恥ずかしくなるなんて初めてだったし。


「い、いえ、なんでもないんですっ。……そ、それより、よかったですね、お嬢様っ。今日もプリシラ様と2人っきりでボートに乗れますねっ」

「え? いや、今日はソラリスも一緒よ?」

「……は?」


 ソラリスが、ポカンとした顔になった。


「だ、だってそんな……せっかくのプリシラ様とのデートなのに……」

「だって、ここに来た時はいつも一緒にボートに乗っていたでしょ?」


 それに昨日はソラリスと一緒に遊んであげられなかったから、今日はその埋め合わせをしないと。あとやっぱりソラリスとも遊びたいし。


「ですが、アレは2人乗りで……」

「だから、ソラリスとプリシラ、交互に乗るわ。――いいでしょ? プリシラ?」


 私は食堂のプリシラに声をかける。


「―――――――ま、まぁいいわよっ」


 返答まで結構間があったんだけど、なんか気に障ったんだろうか?


「あなたがその子と一緒に乗ってる間は、エルザと一緒に乗ってるからっ……別に、練習の成果を見せるのはあなたじゃなくてもいいんだしっ……!」

「まぁまぁ、愛しのクリス様を独り占め出来ないからって妬かない、妬かないっ」

「妬いてないわよっ、バカっ!!」

「おお怖い怖い、あっ、クリス様、お邪魔でなかったら私も1回くらいボート、ご一緒させてもらってもよろしいですか?」

「え? ええ。もちろんいいわよっ」

「ありがとうございますっ」


 1人だけ仲間外れにするわけにもいかないものねっ。


「あ、あの……本当によろしいんですか?」

「勿論よっ」


 私はモジモジとしているソラリスの頭を、優しく撫でてあげる。さらりとしたその感触に――少しだけ胸がドキリとした。

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