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第44話 バレてた!?

 夏休みに入ってちょっとたったころ、私とプリシラ、ソラリス、そしてエルザさんは避暑地としても有名な湖畔へと向かっている。馬車に揺られること数時間、そろそろ湖が見えてくる頃だ。


「プリシラ、ありがとね」


 私は向かいの席に座って景色を眺めているプリシラに話しかけた。


「何よ? 改まって」

「その……一緒に来てくれて、嬉しいなって」


 赤点を無事回避できたプリシラは、約束通りこうして一緒に付いてきてくれた。プリシラと共に夏休みを過ごせるなんて今でも夢の様で、つい頬をつねりたくなる。


「別に……あなたのおかげで成績も良かったし、約束もしたでしょ? それにあなたについて行かないと、あなたの作るご飯が食べられないし……。それだけよっ」

「プリシラ、夏休みに入ってから毎日3食クリス様にご飯を作ってもらってたもんね~。この果報者っ」

「ちょ、こらっ、やめなさいよっ」


 プリシラは隣の席に座っているエルザさんに頭をウリウリとされている。いいなぁ……私も頭ウリウリしたい。でも贅沢を言えばプリシラから頭ウリウリされたい。


「天下のウィンブリア公爵家のご令嬢に手料理を振舞ってもらうなんて、贅沢にも程があるわよっ」

「いいのよ、私が好きでプリシラにご飯を作ってるんだから」


 本当は、プリシラ()好きだからご飯を作ってるんだけど、そうは言えないのがもどかしい。ほんのちょっとの違いなんだけど意味は全然違う。


「それにしても、私まで連れてきてもらってすみません」


 頭ウリウリを継続しながら、エルザさんがぺこりと頭を下げた。


「別荘の広さは十分にあるし、プリシラのお友達のエルザさんなら大歓迎よ」


 プリシラから湖畔の別荘に行くことを聞いたらしく「ぜひ私も連れて行ってください」とお願いされたので、こうしてエルザさんも一緒に来ているというわけだ。

 ちなみにここでもエルザさんはメイド服で、聞いたところ私服を着るタイミングでは必ずメイド服を着ることにしているらしい。とことん趣味に生きている子である。

 ちなみにここに来るまでに、私とプリシラが本当は付き合っていないんだという事はこれまでの経緯も含めて軽く説明しておいた。真相を知ってエルザさんは凄く驚いてたけど。


「あ、お嬢様、そろそろ着きますね」


 メイド服姿のソラリスが弾んだ声をあげた。遊びに行くんだから私服でもいいのよと言ったんだけど、それでもソラリスはメイド服を着ることにこだわってる様子だった。

 つまりこの馬車の中には現在、2人のメイドさんがいることになる。まぁ1人は仮装なんだけど。


「そうね、そろそろ……あっ、見えたっ」

「どこどこ?」


 私の言葉に反応したプリシラと一緒に窓の外を眺めると、そこには日の光を浴びてキラキラと輝く水面が広がっていた。


「うわぁっ……おっきいのねっ……それに綺麗……」

「そうね……」


 とはいうものの、私は遠くに見える湖よりも、直ぐ側にあるプリシラの横顔に見とれていたんだけど。例えどんな絶景でも、私にとってはプリシラに勝るものなんてないのだから。




「んっ……んんんんっ……」


 馬車から降りた私達は、長時間の馬車移動で凝った体を伸ばしていた。胸に吸い込む新鮮な空気がとても心地よい。

 私は横目にプリシラをちらと見ると、同じく体を伸ばしているプリシラの大きなお胸に思わず目が行ってしまい、慌てて目を逸らした。


「それでは私が荷物の整理をしていますので、皆さまは先に遊びに行っていてください」


 小さい背格好をしているというのに、見た目に寄らず力持ちなソラリスが馬車の荷台から荷物を降ろしている。ソラリス曰く「メイドは1に体力、2に体力ですっ」とのことらしい。

 そうは言っても、やっぱり見た目的には危なっかしいというかなんというか、思わず手を貸したくなってしょうがない。でも「私も手伝うわよ?」とか言っても、ソラリスは決して私に手伝わせようとはしない。


「いえいえそんな滅相も無い。ここは私に任せて、お嬢様達は遊んでいてくださいな」


 こんな感じで、それが私の仕事ですからと頑として譲らないのだ。


「でも、重そうよ? 1人じゃ大変でしょ?」

「何のこれしき――」

「――では私がお手伝いしてますから、クリス様とプリシラは先に行ってください」


 そう言うと、メイド服姿のエルザさんがひょいと荷物を持ち上げた。意外なことに、こちらも結構力持ちだ。やっぱりメイドを志す者としては体を鍛えているんだろうか?


「そんな、エルザ様にそんなことをさせるわけには……!」


 なにせエルザさんはれっきとした伯爵令嬢。私が言うのもなんだけどお嬢様の中のお嬢様なのだ。そのお嬢様に手伝ってもらうなんてソラリスじゃなくても慌てるに違いない。でもそのエルザさんは何とも平気な顔をしている。


「いいのよ、ソラリスちゃん。今の私はメイドさんなんだから、お嬢様にお仕えすることが私の喜びなのよっ、ねっ、クリス様っ?」


 エルザさんが、私に向かってパチリとウインクをした。……えっ、もしかしてそのお嬢様って私のこと……?


「で、でもっ……」

「いいからいいから、ほらほら、ここは若い2人に任せて、ねっ」

「え、えええ……?」


 困惑しているソラリスを伴って、何とも鮮やかな手際で荷物を抱えたエルザさんは別荘の中へと消えていった。

 後に残されたのは、私とプリシラの2人っきり。


「ど、どうする……?」

「どうするも何も、お言葉に甘えましょ? ほらほら、早くっ」


 私はプリシラに手招きされて、湖の方に歩き出す。


「風が気持ちいいわね」

「そ、そうね」


 湖へと通じる道を、私とプリシラは2人並んで歩いている。考えてみたら外でプリシラと2人っきりで歩くなんて、あのチケットで釣って無理やりして貰ったデート以来だ。

 あの時みたいに手を繋いで歩きたいけど、特に理由も無いのにそんなことを言いだしたら変に思われるだろう。

 そんなことを考えながら、チラチラとプリシラの手を盗み見ていたら――


「……はいっ」


 ――その手を差し出された……!! え、な、何!? 何が起こってるの!?


「……いや、だってあなた、さっきから私の手をチラチラ見てたから……手、繋ぎたいのかなって」


 バレてた!? は、恥ずかしいっ……!! もしかして、さっきお胸を見ていたのも気付かれていたんじゃ……いや、アレは気付かれてないと信じたい。だってバレてたとしたら恥ずかしいなんてもんじゃないし――


「――ちょっと……なんかこれじゃあ私の自意識過剰みたいになってるんだけど? 何? 私の勘違いなの?」


 プリシラがやや赤い顔をしながら手をブラブラとさせている。確かに、これが勘違いだとしたら結構恥ずかしいかもしれない。勘違いじゃないけど。


「そ、そんなことないわよっ!?」


 確かに見てました!! 手を繋ぎたいです!!


「良かった。大恥かくとこだったわ……じゃあ、はいっ」

「う、うんっ……」


 私は差し出された手を、ぎゅっと握った。暖かいプリシラの手、私はその温もりを感じながら、湖へと通じる道を2人で歩いて行った。

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