第29話 世の中って不公平
「~♪」
「ご機嫌ですね、お嬢様」
「まぁね~♪」
自室でソラリスにお勉強を教えながら、私は浮かれているのを自覚していた。でもそれも無理は無いと思う。だって大好きなプリシラとここ1週間くらい、勉強を教えるという事で毎日とお話できてるんだもん。
放課後は図書室に直行して、休日も「試験ヤバいでしょ?」と言い含めて図書室に連行していた。つまり現在、プリシラと会話連続日数を絶賛更新中なのだ。そりゃ顔もにやけるってものよね。
「んむぅ……まぁ私のお勉強も約束通りちゃんと見てくれてますし、別にいいんですけどぉ……」
「どうしたの? ソラリス」
「何でもないですよ~だ」
ソラリスはぷうっと可愛く頬を膨らませている。何でもないってことも無いように見えるんだけど。
「……それよりお嬢様、私の策でプリシラと仲良くできたら、ご褒美を頂けるお約束でしたよね……?」
ソラリスが頬を膨らませたまま、じっと上目遣いで見つめてきた。
そう言えばそうだった。私が今回プリシラと毎日お話できているのも全てソラリスの策のおかげだし、これは確かにご褒美をあげねばなるまい。
「うんいいよ。それじゃあ今晩また一緒に寝ようか?」
「え、あ、その……そ、それも捨てがたいんですけど……今はすぐにご褒美が欲しい気分なんですっ!」
「すぐにと言っても……今は夜だけど、まだ寝るには早くない?」
ご飯も食べたばかりだし、お風呂にも入ってない。こんなんじゃあベッドに入っても眠れっこないんだけど。それに今日のお勉強もまだ終わってないし。
「え、えっと……その……で、ですから、今日は添い寝では無くてでして……」
「何をして欲しいの? 私にできることなら何でも言ってよ」
「何でも……!?」
ソラリスがぎょっとしたような顔をした。
「な、何でも……と、という事は……あ、あんなことやこんなことをお願いしても……いやいや、待て待て、ここはやっぱり焦らずプラン通りに……」
何か小声でブツブツ言ってて聞き取れなかったけど、その間ソラリスの顔がコロコロ変わってて面白かった。
「じゃ、じゃあその、こちらへ来てください」
「え、うん」
キリもいいところだったから勉強を中断して、私は手招きされるままにソラリスについていくと、彼女は寝室の扉を開けて自分のベッドの上にちょこんと正座した。
「あれ? やっぱりもう寝るの? でもこんな格好だし、まだ眠くないんだけど」
私は部屋着のままだし、ソラリスなんてメイド服だ。このまま寝るのはお行儀も悪いと思うよ?
「いえ、そうではなくて、と、とりあえずこちらへどうぞ」
「わかったわ」
ポンポンとベッドを手で叩くソラリスに従い、私は彼女とベッド上で向かい合う。
「これからどうするの?」
「えと、つまり、その……」
ソラリスは恥じらうように自分の膝をさする。その頬はこれまで見たことないほど赤く染まっている。
「…………ひ、膝枕をさせていただきたいんですっ……」
「ほぇ?」
膝枕?
「膝枕って、あの膝枕?」
「はい、そうです……ダメですか?」
「いや、ダメなんてことないけど……ご褒美、そんなんでいいの? むしろ私がする側じゃない? それ」
「そ、そんな畏れ多いっ!! お嬢様の膝に私が頭を乗せるなんて、そんなこと身に余る行いですっ!!」
そんなことないんだけどなぁ。ソラリスにならいくらでも膝枕してあげるのに。でも、ソラリスがそう言うんなら仕方がない。
「じゃあ、お言葉に甘えてお願いしようかな? いい?」
正直なところプリシラ、ソラリスと毎日お勉強を見てあげていたので、楽しくはあったものの疲れがたまっていたのも事実だった。
「はいっ……!! どうぞ!! 私のお膝を存分にご堪能下さいましっ!!」
ソラリスが両手を広げて私を迎え入れる意思を示したので、私は遠慮なくその膝に頭を乗せた。
「お嬢様が私の上にっ……!! ど、どうですか? 私のお膝、気持ちいいですか?」
「うぅん、程よい弾力がたまらないわね」
「ああっ……嬉しいですっ……!! ありがとうございますっ……!!」
なぜか膝枕している方がお礼を言うという奇妙な構図になっている。でも、ソラリスに膝枕してもらうなんて子供の頃以来だし、凄く気持ちいい。
私はそのまましばらく頬でその柔らかい感触を堪能した後、ごろりと上を向いて――
「……」
――絶句した。
「どうなさいました? お嬢様?」
ソラリスの声が……胸の向こうから降ってくる……その顔は……全く見えない。見えないのだっ……!!
改めて下から眺めてみてわかる、圧倒的な存在感……! 私とはまるで勝負にならない……!!
「世の中って不公平ね……」
「はい? 不公平?」
「ほとんど同じもの食べてるはずなのにっ、どうしてこんなに違うのかしら……」
「あっ……」
自分のお胸のことについて言われてるのだと気づいたらしいソラリスの声に恥じらいが混じる。
「数年前まではおなじペタンコだったのにぃ~。裏切者ぉ~」
私はソラリスのわき腹をツンツンつつく。
「ひゃんっ! そ、そんなこと言われましても、なんか何もしてないのにすくすく育ってしまいまして……」
「羨ましいぃぃぃ~~」
私は目の前に広がる南半球に羨望の眼差しを向けつつ、それを鷲掴みするマネをする。
「少し分けてよぉ~」
「そ、そんな無茶な……でも、私はお嬢様の慎ましいお胸も好きですよ。美しい、いい形をなさってますし」
「慰めなんていらないのよぉ~~」
「な、慰めなんかじゃありませんよ? ホントに素晴らしいと思ってますっ」
それは持ってる立場だから言えるんだぁ~
「肩もこりますし、大きくてもいいことなんて全くありませんよ?」
「ああっ……『胸が重くて肩がこる』っ……言ってみたいっ」
「ええぇ……」
ソラリスの困ったような声が上から降ってきた。多分顔も苦笑している。見えないけど。見えないけどっ!
「そう言えば、プリシラも肩がこったりするのかしら」
「ん、まぁ、彼女もまぁまぁですし、たぶん」
「いいなぁぁぁ~~」
「……えっと、お嬢様って胸は大きい方がお好きなんですか?」
「好きというか羨ましいというか……まぁ、好きかな」
「私のお胸も、お好きですか?」
「うん」
ソラリスの大きなお胸はとても魅力的だと思うし、それに愛くるしい童顔とのアンバランスさが、また一層可愛さに拍車をかけていた。
「えへへ~、そうですか~」
そして私は嬉しそうに弾むソラリスの声を聞きながら、頭を優しく撫でてもらいつつ、お膝のその柔らかい感触を堪能し続けた――




