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第22話 噂にもなるよね

 私は昨日プリシラから握ってもらっていた左手をさすって、その感触を思い出しながら教室への廊下をソラリスと2人で歩いていた。


「それでね、それでね、その時プリシラったらね?」


 思わず声が弾んでしまう私に対して、ソラリスは呆れた顔をしている。


「お嬢様~。私、昨日から何十回もデートのことを聞かされてるんですけど? おかげで最初から最後までどんなだったかすっかり暗記しちゃいましたよ」

「だってさぁ」


 デートがあまりに楽しかったから、何回話しても話し足りないくらいなのだ。現にプリシラと部屋の前で別れてから、そのまま夜遅くまでソラリスにずっとデートの様子を聞いてもらっていた。

 おかげで私もソラリスも寝不足気味だ。


「ふぁぁ……」

「眠いの? ソラリス」

「そりゃ眠いですよぉ。だってお嬢様がなかなか寝かせてくれないんですもん」

「だってぇ」


 お互いベッドに入ってからも胸の高鳴りが抑えられなくて、寝ようとしているソラリスについつい話しかけてしまった。ちょっと悪いことをしたと思っている。


「はぁ……どうせ寝不足にさせていただけるなら、もっと別なことがいいんですけどねぇ……」

「別なこと?」

「いえ、こっちの話ですよ~」


 変なソラリスだ。やっぱり寝不足で頭が回っていないんだろうか。


「まぁお嬢様が楽しそうなので何よりではあるんですが……それでも少々こたえますね……」

「ごめんね、夜遅くまで付き合わせちゃって」

「いや、それもあるんですけど……」

「???」


 やっぱり今日のソラリスはどこか変だ。まぁ私も寝不足で頭がぽややんとしてるけど。

 それでも昨日のプリシラの手の感触を思い出して、私は自分の左手に頬ずりをする。こうしていると昨日の幸福感が蘇ってくるようだ。


「えへへ~」

「あ~、えっと……その、お喜びのところ悪いんですけど……」

「何?」


 ソラリスが何かを思い出したような顔をしてこっちを見てきた。一体何だろう。


「その、お嬢様があんまりにも嬉しそうで伝えられなかったんですが……」

「うん」

「え~、何と言いますか、昨夜あたりから学園中で噂になってまして……」


 ああ……それはそうだろうね……


「ま、まぁそれはその、あんな手を繋いでるところ見られたら、噂にもなるよね」


 私とプリシラが付き合っていると言う噂。それには根も葉も全くありはしないのだけど、それでも昨日の私達の姿はその噂を本物と認識させるには十分すぎるだろう。

 いや、それは全くの誤解なんだけど、出来れば将来的には誤解じゃなくなるように努力するつもりだ。


「あ、いや、それじゃなくて……いや、それもなんですけど、その……」

「???」


 言いにくそうにしているソラリスに話を聞き出そうとしていると、いつの間にやら教室についてしまった。


 そこで私の目に飛び込んできたのは、プリシラがクラスメイトに囲まれている姿だった。そして何故か知らないが祝福されている感じで、一体何なのかと私は近づいてみると、


「プリシラ、良かったね!!」

「だ、だから……!! それは違うんだってっ……!!」

「いやいや、照れなくてもいいんだって、愛にはいろんな形があるものだからね」


 なんか肩を叩かれたりして、皆から口々に『良かったね』と言われていた。


「違うって言ってるでしょ!? く、詳しくは言えないんだけど、それでも違うのっ!!」

「詳しく言えないとか……ねぇ?」

「どう見ても怪しいわよね~」

「そもそも昨日あんなに仲良さげに手を繋いでデートから帰って来ておいて、それは無いわよねぇ?」

「ね~?」


 クラスメイトから散々からかわれて、プリシラが顔を真っ赤にしている。


「そ、それは約束でっ、全然そんなんじゃないんだって……!! そもそも仲直りって……!!」

「だって、危うくクリス様から捨てられちゃうとこだったんでしょ?」


 ……は? 何? 捨てる? なんか聞きなれない言葉が出てきたような。


「それで、仲直りにデートして来たんだよね~? どうだった? 上手く仲直りできたの?」

「バカねぇ、あんな人目もはばからず手を繋いで帰ってきたのよ? 上手くいったに決まってるじゃない」

「そうだよね~」

「だ、だから違――」


 プリシラの否定の声は徐々にボルテージの高まる聴衆の声にかき消されてしまう。


「ねぇねぇ! キスとかしたの!?」

「そんなのとっくにしてるに決まってるじゃない、ねぇ?」

「ということはまさか、次は大人の階段を昇っちゃったり……!? きゃ~~っ!!」


 恋に恋するお年頃の女の子達の黄色い声は、そこで最高潮に達した。でもどうやらその噂の当事者の1人らしい私は困惑で頭がいっぱいだ。


「……ねぇ、何これ、どうなってるの?」


 私は隣に立っているソラリスに尋ねる。いや、ホントに何がどうなってるか欠片も分からないんだけど。


「それがですね……」

「うん」


 答えるソラリスの顔は何とも言い難い顔をしている。


「……どうも『プリシラがお嬢様に捨てられそうになったところを、デートでよりを戻した』って噂が学園中に広まってるみたいでして……」


「…………えっ」

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[一言] 断章はいつもきっちり 待ちきれない(;´༎ຶД༎ຶ`)
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