エピローグ 神様の奇跡
「子供が出来たぁぁ!?」
部屋の中に、ソラリスの絶叫が響き渡った。
私はベッドに座ったまま、3人の嫁達から囲まれている。
「ど、どどどどどど……どういうことですか!? お嬢様!!!!」
「どういう事と言われても、私にもさっぱり分からないのよっ……!!」
何かここ数日体調が悪いなと思っていたら、今朝には気分が悪くなってトイレに駆け込んだ。なにかの病気かと思って主治医に見せてみたら……『おめでたですね』なんて言われてしまったのだ。
……いや、なんで?
私達、女の子同士よ? どうして子供ができるの? 全くわけが分からないんだけど……!?
「ま、まさか、クリスお嬢様、私達というものがありながら……」
「違う!! 違うわよ!?」
私は浮気を疑われそうになって、必死に弁明する。だって本当に心当たりが無いんだもん!!
「ですが――」
「いや、考えても見てよ!! 私、あなた達と付き合うことになってからは24時間片時も離れず誰かが私の側にいたでしょ!? それは、私のスケジュールを管理していたソラリスとエルザならわかるでしょ!?」
私がこの子達と付き合うようになってからは、ご飯の時は勿論、お風呂は全員一緒だし、寝るときも一緒、それに私がお手洗いに行くときさえ、扉の前で誰かが待っていたんだし。
そんな状態で浮気なんて不可能に決まっている。それに、
「私、男の人に一切興味ないもん!! 知ってるよね!?」
「それは……確かに」
「私がその……そういうこと、をしたのは、神に誓ってあなた達だけよっ……!」
私は、きっぱりと嫁達に告げる。
「私は、その……クリスのことを信じてるわ」
「プリシラっ……」
「あああっ!! 抜け駆け!! 抜け駆けです!! お嬢様、私も信じてますからね!?」
「ソラリスっ……」
「いや、勿論私も信じてますよ? だっておっしゃる通り、お嬢様が浮気をするなんて私達がいる以上物理的に不可能ですし」
「エルザっ……」
どうやら、信じて貰えたらしい。でも、そうなると……
「どうして、お嬢様のお腹に赤ちゃんが宿ったのか……と言う問題になるんですけど……」
「それなのよね……」
これがもう、皆目見当もつかない。私が浮気をしていないのは私が一番知っている。私が婦婦の営みをしているのは、誓ってこの子達だけなのだから。
「――案外、私との子供だったりするんじゃない?」
「ふぇ!?」
「だってほら、私達って子供が出来てもおかしくないくらい愛し合ってるんだし、奇跡の1つや2つくらい――」
そっと私のお腹に触れてくるプリシラに、ソラリスが「異議あり!!」と割って入った。
「そんなことありませんー!! もし万が一奇跡が起きたのだとしたら私との赤ちゃんに決まってます!! だって私とお嬢様は深く深~~~~く愛し合ってるんですからっ!!」
「あら? 私とクリスの方が愛し合っているわよ? だってクリスってばお布団の中で、それはもう可愛くてたまらないくらい私に甘えてくるんだからっ!」
「ちょ……!?」
「それを言うんなら、お嬢様だって私に甘えてきますよ!? ええそれはもう、見せてあげたいくらいに甘々ですっ!!」
「や、やめ……」
「確かに、クリスお嬢様って2人っきりの時は目いっぱい甘えてきますもんね~。4人でお布団に入ってる時とは、また違った味わいがあって実にいいです」
「ちょっとぉ……!?」
流石に真昼間からそんな話題は恥ずかしいっていうか……あああ、もう収拾つかないっ……!!
「私のだってば!!」
「私の子供ですっ!!」
「もしかしたら私のかも」
私の子だと主張する3人は、一切譲る気配が無くどうしたものかと頭を抱えていると――
『――プリシラさんとの子供ですよっ』
………………?
今の声、誰の声?
あたりを見渡しても誰もいない。それなのに、確かに聞こえた。
私だけが聞こえた幻聴……? かと思っていると、3人も驚いた顔で言い争いを止めていた。
「今の……なに?」
「頭の中に声が……」
「え、え、え? どういうことですか?」
「皆にも、聞こえたの……?」
私が尋ねると、3人がこくりと頷いた。
「私の子供だって……」
「ええ……そう聞こえましたけど……でも、えええ……?」
「どうなってるんです……?」
私達が混乱していると、そこに、
『聞こえますか? もしも~し?』
また、声が聞こえた。それもはっきりと。
「「「「なにこれ!?」」」」
慌てふためく私達に、更に声は聞こえてくる。
『えっと……クリスさん?』
「は、はいっ」
『私です、私』
どちら様……!? 全然心当たりが無いんですけど!?
『あなたが『見ていろ』って啖呵を切った相手ですよ~』
「え、ええと……」
私が、見ていろ……? え、なに、えええ?
『私が過去に戻してあげたとき、あなた言いましたよね? 『ありがとう神様、見ていろ神様、私は無様でもあがいてやる』って』
「は……?」
えっと、過去に戻してあげた……? ……え? もしかして……?
「神様、ですか?」
『はい、そうです。神です』
ぶー―――――――――っ!!!
私達全員が吹き出した。
『見ていましたよ~。やるじゃありませんかっ。無事にあの状況から幸せになれたんですねっ。お見事です』
え、あ、ええええ!? か、神様……? マジで?
「ちょ……クリス……」
「プリシラ……」
「あの夜言ってたこと、ホントだったの……?」
「あ、うん……」
「過去から戻って来た、って……?」
「そう、なの」
『そうなんですよ~。クリスさんが生涯をかけて祈ってくれたので、ギリギリの地点だけど戻してあげることが出来たんです~』
あ、なんだ、神様の意地悪じゃなかったんだ……
『そうですよ~。あれが限界だったんです。決して意地悪じゃないんですっ』
「心を読まないで貰えます!?」
『だって私、神様ですから』
「こんな……ありえない……こんなの、空想小説の話です……」
『現実を見ましょうね~エルザさんっ』
エルザが、神様に突っ込まれてる。
『それで、頑張ったクリスさんにご褒美を上げようと思いまして』
「それって……」
『はいっ、あなたがあの夜赤ちゃんを欲しいって言ってたので――願いを叶えてあげました。あなたのお腹にいるのは、あの夜授かった子供ですよ~』
「そんなことできるんですか!?」
『だって私、神様ですし』
それは、まぁ……私を過去に返してくれたくらいなんだから、女の子同士で子供を作ると言う奇跡も起こせても不思議ではないのかもしれないけど……そんなのアリ?
「えっと……神、様?」
『はい、プリシラさん、神ですよ~』
「その……ほんと、なんですか……? クリスのお腹に宿った子が、私との子供だって……」
『はい、本当です』
その言葉を聞いたプリシラが、しばし呆然とした後私に振り向いて――凄い勢いで抱きついてきた!!
「クリスっ……!! やったわねっ……!! 私達の子供よっ……!!」
「プリシラっ……!」
「嬉しいっ……!! 私、今人生で一番幸せよっ……!! 愛する人に、私の子供を産んでもらえるなんて……!! 生きててよかったわっ!!」
「それは、こっちの台詞よっ」
まさか、本当にプリシラとの間に子供を授かることができるなんて……神様ってすごい。
『まぁでも、生まれた子供は親戚からの養子ってことにしておいた方がいいと思いますよ~? 普通は女の子同士で子供は生まれませんからね』
「あ、はい」
なんかえらい世俗的なアドバイスをしてくれる神様だった。
『あと生まれる子供は女の子で確定です』
あ、そうなんだ。確かに女の子同士から生まれるんだし、女の子で当然よね。
「ほ、ほんとに……お嬢様とプリシラの子供が……?」
「し、信じられません……」
「となると――」
ソラリスが私と神様を交互に見た。そして、
「私も!! 私もお嬢様との間に子供が欲しいです!!!」
「ちょ……!?」
『いいですけど……』
いいの!?
『でも、私が加護を授けられるのは長年祈ってくれたクリスさんだけですよ? この場合、2人の子供を宿せるのはクリスさんのお腹だけで――』
「それで構いません……!! いや、むしろ絶対にそっちがいいです!!」
ソラリスの、即答だった。むしろ食い気味だった。
「お嬢様!!」
「は、はいっ」
あまりの勢いに、思わず敬語になってしまった。
「――私との赤ちゃんも、産んでくださいっ……!!」
「ふぇ!?」
「お願いします!! プリシラだけじゃ不公平ですっ!! 私もお嬢様との子供が欲しいんですっ!!」
「あ、うん……分かったわ」
「あ、私も私も~。私も欲しいですっ」
「エルザも、もちろんよっ」
私だって、授かれるものなら2人との子供も欲しいしっ。いやでも、そんな簡単に――
『はいはい、では子供を産んだ後、次に婦婦の営みをした女の子の子供を授かれる加護をあげちゃいましょう』
軽!? そんなのでいいの!?
「ちなみに人数制限は……」
『ありませんよ~』
「「「やったぁ!!!!」」」
3嫁達が、こぶしを突き上げた。
え、あの、ちょっと、皆さん?
「じゃあ次は私でいいですよね、プリシラ?」
「まぁ、そうね」
「じゃあその次が私ですね~。いやはや、今から楽しみですっ」
ね、ねぇ? ちょっと?
「その次がまた私で~」
「その更に次がまた私ですっ!」
「次の番は私、プリシラにあげちゃうわっ」
「いいの!?」
「私とプリシラの仲じゃないっ」
「ありがとう、エルザっ……!!」
2人はしっかと抱き合っている。いい友情だなぁ……じゃなくて!?
『うんうん、仲良きことは美しきかな、ですね』
「あの、神様……?」
『加護はもう授けましたので、ではお嫁さん達と仲良くするんですよ?』
「あ、はい」
そして、辺りに満ちていた神秘的な空気はどこかへ行ってしまい――あとには私達だけが残された。
「いやぁ……奇跡ってあるんですね……」
「そうね、びっくりよ」
「私は未だに信じられない気持ちでいっぱいなんですけど……」
私も、同じ気持ちよ?
「さて、じゃあクリス?」
「お嬢様?」
「クリスお嬢様っ」
「な、なに、かしら……?」
3嫁達がじりっと距離を詰めて来た。私はおもわず後ずさりしたけど、直ぐにベッドの端に追い詰められてしまう。
「神様にも婦婦仲良くって言われましたし」
「神様に言われちゃったら、それはもう仲良くしない選択肢はありませんよねっ」
「ですです」
「あ、でも、今日は3人の日じゃ……」
「「「今日は特別っ」」」
「にゃぁぁぁ!?」
――それから先、ウィンブリア公爵家は双子も合わせて22人もの“養子”の女の子を迎えることになったのだった。
エピローグを書きました……!!
これでいいのか……!? と思いつつ、書かずにはいられなかったのです……!




