個別エンド【エルザ】 全部手に入れちゃいましたっ
今日は週1回のエルザとのローテーションの日だったので、何をしたいかを聞いたところ、
『男の子の格好をしてデートを希望します!!』
と、ぶれない返事が返って来たので、私とエルザは2人、街を散策していた。当然ながらエルザはメイド服だ。
「ほんと、好きよね~。私にこの格好させるの」
「だってぇ~。本当なら、結婚式のときだって男装して欲しかったんですよ? それくらい私、男の子の格好をしたお嬢様に惚れてるんですっ! もちろん、普段のお嬢様にも惚れてますけどねっ」
何とも言えないこだわりを口にしながらホクホク顔でくっついてくるエルザだけど、そのへんが可愛いのも事実だった。
「それにしても……エルザってローテ、週1回よね? なんか改めて申し訳ないと言うか……それでいいのかしら」
嫁達のローテーションは週にプリシラが3日、ソラリスが2日、そしてエルザが1日と、私を独占できる日が決まっていて、残りの1日は3人全員で……という決まりになっている。
なので実質エルザが私のお嫁さんである日は週2日ということになり、なんか悪い気がするのよね。他の子と比べてだいぶ少ないし。
「いいんですよっ、私から言い出したことですから」
「でも……」
「それでも、お嬢様を愛する気持ちは、他の2人にも負けてないつもりですっ! それは……ご自身のお体でよくわかってると思いますけど」
「ま、まぁねっ」
今朝のことを思い出して私は顔を赤くして、首筋を押さえた。まだくっきりと唇の跡が残ってるのよね……
「それに、ですよ?」
エルザはイタズラっぽい笑みを浮かべながら自分の唇に指を当てた。
「私はローテじゃない日はお嬢様の”メイド”としてお仕えしてますからねっ。実際のところは私、1週間まるまるお嬢様とお付き合いしてることになるんですよっ」
「あっ」
そう言われたら……そうかもしれない。
もともと私の専属メイドだったソラリスもいまだに嫁兼メイドとして私に仕えてくれているけど、今ではそこにエルザが加わっていて私は2人のメイドから、毎日着替えさせてもらうとかその他もろもろのご奉仕を受けている。
「つまり、私は週5でお嬢様のメイド、そして週2でお嬢様の嫁という、それはそれは充実した日々を送ってるわけなんですよっ!」
なるほど……エルザって元々は私の嫁としてと言うより、それを隠れ蓑にして私にメイドとして仕えたいから結婚して欲しいって言われたんだった……今ではそれに嫁としてってのがプラスされたのだから、確かにエルザからしたら今の生活は大満足なんだろう。
「なんとも……上手くやったと言うかなんというか」
「でしょ? 私、したたかなんですっ」
自分で言うかね、それ?
「理想のお嬢様にして理想の嫁、そして理想のお姉さま……ああっ……私の人生はバラ色ですよっ」
「バラ色の人生、か……」
そう言えば、前回の私の人生では、この子とは全く関りが無かった。プリシラの友達ってことでプリシラノートに名前はのっていたけど……それでも、会うのは初めてだったもんなぁ。
でも、この子……前世ではどんな人生を送ったんだろう。
「ねぇエルザ?」
「なんですか?」
「私と出会わなかったら……どんな人生を送っていたと思う?」
「ずいぶん唐突な話ですね?」
「いや、あくまで仮定の話よ、仮定の」
私はプリシラとソラリスの人生も大きく変えたわけだけど、この子の運命も大きく変えてしまったのよね……。そう考えると、何と言うか……この子も幸せにしてあげないとなって気持ちが湧いてくる。
「そうですねぇ……」
うーん、とエルザがあごに手を当てて悩んでいる。
「これはあくまで私の想像ですけど……」
「うん」
「――たぶん、プリシラと結婚してたんじゃないかなって」
「ぶっ!?」
何それ!? どういうこと!? そんな未来無かったわよ!?
「いや、あくまでも『もしも』、の話ですよ?」
「もしもにしても予想外過ぎるわよ!? それに、恋愛感情は無いって言ってなかったっけ!?」
「はい、ありませんよ? あくまで私とプリシラの間にあるのは友情です」
「だったら何で――あ」
「そういうことです」
つまり、最初エルザが私に提案して来たみたいに、形上は嫁として、そして実質はメイドとして仕えたい……ってそう言う事!?
「いや~。クリス様に会うまでは、実際それもアリかな~って思ってたんですよね。私、結構プリシラのこと好きなんで、あくまで親友としてですけど」
「そ、そうなんだ……」
そう言えば、この子が結婚を申し込みに来た時にプリシラに『大親友の私と一緒にいられるんだから、プリシラも嬉しいでしょ?』みたいなことを言ってたけど……それって、エルザも友達としてずっとプリシラと一緒にいたかった、ということか……そうなると……
「ほんと、大成功、なのね……」
お見事と言うか何と言うか、全てこの子の作戦通りか。
「はいっ、それはもうっ」
エルザは満面の笑みを浮かべて、私にぎゅっと抱き着いてきた。
「先ほどの話ですけど……理想のお嬢様にして理想の嫁、そして理想のお姉さま――それに理想の大親友……私、全部手に入れちゃいましたっ」
ほんと、かなわないなぁと思いながら、それでも私はこの子のそんなところも大好きだった。したたかで、でも愛くるしい、そんな私の愛する嫁が、このエルザだ。




