第108話 うぐっ……
エルザとの初デートの日、私は3人の彼女達に裸にひん剥かれ、そしてとある恰好に着替えされられた。でも、その恰好と言うのが――
「お嬢様っ……なんて可愛らしいっ」
「いい……凄くいいわねっ、なんかこう、倒錯的な感じがたまらないわ」
「でしょ? 我ながら実にいいチョイスだと思ってるわっ」
「で、でも、その……」
3人から絶賛の嵐をうけながら、私はズボンをきゅっと握った。
「……なんで、男の子の格好なの……?」
そう、私は今、男装……それも、少年っぽい格好をさせられてしまっていた。エルザにどんな風にエスコートして欲しいかと尋ねたら……こんな感じにさせられてしまった、というわけだ。
「だって、私がクリスお嬢様に惚れたのって、あのダンスパーティーでの男装したお嬢様にエスコートしてもらったからだって言ったじゃないですか」
「で、でも……!! こんな格好でデートしてたら私、どんなプレイなのって思われちゃうわよ!? 女の子同士で付き合ってるのはいいとしても、片方が男装しているってどんだけよ!?」
なかなかに業が深いとか思われない!? 少なくとも私はそう思うわよ!?
「大丈夫ですよ、お嬢様は領民の方から慕われてますから、きっと暖かい目で見てくれると思いますよ?」
「暖かいじゃなくて、生暖かい、の間違いじゃない!?」
「いやいやソラリス? 今のクリスってどこからどう見ても絶世の美少年だし、クリスだとは気づかれないんじゃない……? 多分だけど」
「多分じゃ困るんだけど!?」
うううっ……私だって絶対バレないようにしなきゃ……
「でも、いいですね~。私もこんな恰好をしたお嬢様とのデート、してみたいですっ」
「そうね、私も今度この恰好でデートしてもらおうかしら」
「ちょ……!?」
何回もやったら、バレる確率上がるんですけど!?
「ところでエルザ? 言っておくけど絶対に夜までには帰ってくるのよ? 抜け駆けは許さないからね?」
「そうよ、式までは抜け駆け出来ないように4人一緒にいようねってことだったんだけど、まだデートをしていなかった妹のために特別に許したんだからね?」
「はぁ~い、わかってますよっ、プリシラ、お姉さまっ」
そう言うと、メイド服姿のエルザがホクホク顔で抱きついてきた。デートなのにメイド服? と思わなくもないけれど、エルザ曰くこれが魂の正装、との事らしい。
「デート後の初キスも、私達立ち合いのものでじゃないとダメだからねっ? 私だってお嬢様と2人っきりでキスしたいのに、嫁協定があるから必ずプリシラ様の前でしかキスしてないんだからっ」
「それは私の台詞よっ、私だってクリスと2人っきりでキスしたいものっ。でも、あなたとクリスを2人っきりでキスなんかさせようものなら、あなたクリスにそのまま襲い掛かっちゃうでしょ? ホント、あなたって草食の皮を被った肉食系なんだから……」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよっ……!! さっきもお嬢様を着替えさせてるときの目ときたら……ほんとハレンチなんですからっ」
「んなっ……!? あなたに言われたくないわよ!! このムッツリメイド!!」
また、いつものごとく喧嘩を始めてしまった。ホント、飽きないなぁこの2人。これもまたある意味仲がいいと言うんだろうか。
「今日こそ負けませんからねっ……!! ぎったんぎったんにしてやります!!」
「望むところよ……!! なんなら今から勝負してあげるわ!! 札を持ってくるから待ってなさい!!」
プリシラはそう言うと、ベッドの上に置いてあった札遊び用の札を取ってきて、シャッフルを始めた。
どうもこの2人、お風呂上がりの私をどっちが着替えさせるか、とかどっちが私の右隣りで――どうも2人的には、右の方がいいらしい――寝るか、とかそう言うのを日ごとで決めるために、札で勝負をしているらしい。
……いや、やっぱり仲がいいんじゃない?
「ではプリシラ様、勝負ですっ!!」
「ええ、じゃあ行くわよっ……!! ……ところで、さ」
テーブルで向かい合い、真剣な目でにらみ合う2人。というところで、プリシラがぽつりと切り出した。
「なんですか?」
「その……私達って、クリスのお嫁さん同士、なわけじゃない?」
「そうですが、それが何か」
「だからその……そろそろ、様、なんて付けなくてもいい……って思うわけよ」
「そう、ですか?」
え? ちょっと?
「そうよ、だって私達、対等な関係になるんでしょ?」
「よろしい……んですか?」
「ええ、いいわ、これからはプリシラって呼び捨てにして頂戴っ! ……さ、ほら、勝負するわよっ」
「はいっ……! 勝負ですっ、プリシラっ……!!」
「その調子よっ! かかってきなさい!」
ちょっと、お2人さん?
「……ねぇ、2人共忘れないでよ? あなた達は“私の”お嫁さんなんだからね?」
「はぁ? 何を当たり前なことを言って……え?」
「お嬢様……もしかして……?」
「あ、いや、その……」
「んふふ~」
うろたえる私の背後から、エルザがニマニマと笑いながら抱きついてきた。
「クリスお嬢様ってば、か~わい~い。お2人が思ったより仲がいいから、焼きもち焼いちゃったんですね~」
「うぐっ……」
そ、その通りよっ……だって、2人共私の嫁なんだもんっ……!!
「もうっ……!! 何をバカなことを言ってるのよこの子はっ」
「そうですよ! 実にバカげてますっ」
2人がガタリと椅子から立ち上がって、エルザに負けじと私にギュッと抱き着いてきた。
「私が愛してるのはクリス、あなただけよっ」
「私もですっ! 私なんて生まれたときからお嬢様一筋ですっ!!」
「私も、お慕いしていますよっ、クリスお嬢様っ」
3人の嫁達から抱きつかれたまま愛を囁かれ、思わず顔がにやけてしまう。私って幸せ者だなっ……
「んもう……なんて可愛いのかしらっ……」
「まったくです……私、お嬢様無しでは生きていけませんっ」
「私だってそうよっ、クリスのいない人生なんてもう考えられないわっ」
そんなことを言ってくれるなんて……! 生きててよかった……!! やり直してよかった……!!
「私達だって、これから愛を深めていきましょうね? クリスお嬢様っ」
「ええっ、そうねっ」
そして私はエルザとも仲を深めるため、2人で街へとデートに繰り出した。




