第105話 ローテーション
「いやぁ、緊張したぁ……!」
両親との顔合わせを終え、私の部屋に4人で戻ってくると真っ先にプリシラがベッドにダイブした。
「こらこらプリシラ、お行儀が悪いわよ?」
「だってぇ……そりゃ伯爵令嬢のあなたはいいわよ? あなたくらいになれば公爵閣下にお目通りすることもあるでしょうし。でも私みたいな下級も下級な貴族からしたら、あのお2人は声をかけるだけでも恐れ多いような雲の上の存在なのよ?」
「でも、公爵様も夫人も優しいお方よ? ねぇクリスお嬢様?」
「そうね、とても優しいお父様とお母さまよ。だって私、怒られたことさえないもの」
「まぁお嬢様の日頃の振る舞いからしたら怒られる理由も無いからってところもあるんですけど。だってお嬢様って超鈍感なことを抜かせば運動も勉強も完璧超人ですし」
いやぁ、それほどでも……
「そうね、鈍感にも程があるけどね」
「ことあるごとに鈍感って言うけど……でも、私だってプリシラのこと好きだったのに気付いてくれなかったし……同じじゃない?」
「あのねぇ……私ってあなたのこと最初は大っ嫌いだったのよ? 嫌いな相手からの好意なんて、そんなの気付くわけないでしょ?」
「ごもっとも……」
ぐうの音も出ない。完璧に論破されてしまった。
「まぁまぁ、でも良かったじゃないですか。こうして結婚の許可も下りたわけですしっ」
「そうね、ちょっと拍子抜けするくらい簡単に許してくれたわね」
ベッドに腰かけた私に、ソラリスはよっぽど嬉しかったのか、私に抱きついて何度も何度も頬ずりをしてきている。
「ああっ……お嬢様と結婚できるなんて……夢のようですっ……」
「私も、嬉しいわよ…………ごめんね?」
私は聞こえないように、小さな声でソラリスに謝った。前世でもこの子は私にずっと愛を注いでくれてた。それに気付かずにずっと自分の世界に閉じこもっていた私に、付いてきてくれていた。そんな彼女の愛に気付けなかった償いを、ようやっとできる。
これからは私も目いっぱい愛してあげないと……!! いやその、実際にいっぱい愛されるのは私の方なんだろうけどね……?
「お嬢様っ……」
「ああん……お姉さまばっかりズルいっ……! 私もクリスお嬢様を抱っこしたいですっ!!」
「あら? あなたはお嬢様のメイドとしてお仕えするんじゃなかったっけ?」
「んもうっ……! お姉さまの意地悪っ! 私だって、もうクリスお嬢様のこと大好きなんですよっ……? ダンスパーティーであんなカッコいいところ見せられたら、惚れちゃうのも当然ですっ……」
「え、そうなの!?」
「そうですっ!! 気付いてなかったんですか!? 私、馬車の中でも結構アピールしていたつもりだったんですけど!?」
全く気づかなかった……エルザにしてはやけに距離が近いなぁとは思っていたんだけど。でも私、この子とまだキスもしてないのよね。
「え、えっと……それじゃあその……」
「はいっ! メイドとしてお仕えするのは勿論ですけど……妻としても愛させて頂きますっ」
「あ、カッコいいって言ってくれたけど、やっぱり私が愛される方なんだ……」
「それはそれ、これはこれですね。だってクリスお嬢様ってどう見てもそっち側ですし」
それはまぁ……確かにそうだけどっ。
「むぅっ……そうなると……」
プリシラがムクリとベッドから起き上がった。
「ローテーションとかも調整しないといけないわねっ」
「ん……?」
ローテーション……? どゆこと?
「そうなると……一番多い割り当ては第一婦人である私ってことでいいのよね?」
「むぅ……まぁ、仕方ありませんねっ、ですが私も週に2日は頂きたいですっ! ここは譲れませんっ!」
だから、何の話? ねぇ?
「あ、私は週に1日でいいわよ? ……そうなると、プリシラが週に3日、お姉さまが2日、私が1日ってことになるわね」
「あれ? そうなると1日余るんだけど」
ちょっと、3人とも? 何を話してるの? 3日? 2日? 何のこと……?
「ええ。その余った1日は、3人でクリスお嬢様を共有するってことでどう?」
「ふむ……」
「ほら、私達妻同士も仲を深めないといけないし、その日は仲良く3人の妻でお嬢様を愛して差し上げるの。どうかしら?」
「私としては……いいと思う。だってお嬢様と一緒にいれる日が1日増えるわけだし」
「まぁ、私としても異存はないわ。エルザがいいって言うんなら、それでいいわよ」
「じゃあ、それで決まりね!」
「ちょっと……!! 何の話!?」
さっきから私そっちのけで話が進んでるんだけど!!
「え? ですから、ローテーションの話ですけど」
「だから、ローテーションって何よ!?」
「はぁ……? ローテーションっていえば、クリスのローテーションに決まってるでしょ?」
「私の……?」
え? つまり……どゆこと?
「ですから、お嬢様は3人の妻がいるわけですよね?」
「そうね」
「今でこそ4人全員一緒にいますけど――」
「それは、あなたの抜け駆け防止用なんだけどね?」
「その言葉、そっくりそのままリボンを付けてお返ししますよ、プリシラ様っ」
また、なんか2人がバチバチと火花を散らしている。いやぁ、2人共本当に仲がいいなぁ……ハッハッハ……
「おほん――で、今でこそ4人全員一緒にいますけど――」
何事も無かったように、ソラリスが話を戻した。
「でも、結婚したからにはその……やっぱり2人っきりの甘いひと時が欲しいじゃないですか?」
「それは……そう、かも?」
「ですので、日替わりでお嬢様を独り占めできる日を作ろうという、そのためのローテーションなのです!」
「……へっ?」
え? あれ? でもさっき週7日、それぞれに妻が割り当てられていたわよね? そうなると……
「えっと……つまり、私が1人になる時って……?」
「そんなもの、おありだと思いますか?」
「あなたは私達3人を娶るのよ?」
「ですです、なのでこれは当然のことなのですっ」
ですよね~。
いや、それはそうだけどっ……! 私、体力には自信のある方なんだけど、それでも体、持つかしら……




