第104話 顔合わせ
「お久しぶりです、お父様、お母さま」
実家に帰って来てから、私達は早速両親との顔合わせをすることにした。両親がテーブルの向かいに座っていて、私の両隣にはプリシラとエルザ、そしてエルザの隣にソラリスが立っている。
「ああ、久しぶりだね、クリス」
「とりあえず皆さん、座ってくださいな」
温厚な父とお淑やかな母はにこやかに私達に座るように促してきたので、めいめいが席に着いた。
「えっと、それで、お父様……」
「ああ、結婚の件だね?」
「ええええ、分かっていますとも」
何か、両方とも凄い上機嫌なんだけど……なんで?
「あの小さかったクリスが遂にお嫁さんを連れて来るなんてねぇ……時間のたつのは早いものね」
「それに、こんなに可愛いお嬢さんが3人も……!! やるじゃないか、クリス」
「あ、はい。ありがとう、ございます……」
何かすっごい喜んでる。どうも私が嫁を連れてきたのが嬉しいらしい。
「さて、それじゃあまずはクリスが選んだ女の子達を紹介してもらえるかな? まぁそうは言ってもソラリスについてはよく知っているけどね」
「ですね、小さいころから成長を見てきましたし」
「奥様っ……」
「ふふっ、良かったですね、ソラリス。あなたはずっとクリスのこと好きだったものね。それがまさかあんな手段で正式に嫁になれる条件を整えるなんて……やりますね」
ソラリスを妾では無く正式に嫁にするために、色々やったことは既に手紙で伝えてあった。それに関して返事の手紙では凄く驚いていたようだったけど、どこか愉快そうな雰囲気を感じる文面だった。
「ああ、私達では嫁にしてやることは出来なかったからねぇ……あれだけクリスのことを好きだと言うのに妾にしかなれないと言うのは少々不憫ではあったんだけど、まさかこう来るとは。いやいや、見事見事」
「旦那様っ……」
両親からお褒めの言葉を貰ったソラリスが、感動のためか震えていた。
「それにしてもクリス……」
「はいっ」
「お前がいつこの子の気持ちに気が付くんだと、私達もヤキモキしていたんだぞ? それが何だ、こんなギリギリになって気付くとは」
「ほんっとにこの子ったら鈍感で……誰に似たのかしら」
「まさか私達から妾にしてやれと言えるはずも無いしなぁ……」
「全くですよ。あれだけ好かれて気づかないなんて、我が娘ながら……」
え? 何で私久しぶりに会った両親からフルボッコにされてるの? ていうか2人共、ソラリスの気持ちに気付いてたの? 知らなかったの、私だけ? え? マジで?
「いやいや、皆さんもこんな鈍感な娘で苦労なさったでしょう」
「すみませんねぇ。私達の教育が至らないばっかりに」
「そ、そそそそそ、そんな滅相も無い!! お顔を上げてくださいっ!!」
「そうですよっ!! ウィンブリア公と夫人に頭を下げていただくなんて、恐れ多いですっ!!」
頭を下げた両親に、プリシラとエルザが慌てふためいた。ちなみにソラリスは固まっている。
「たしかに、その、クリスってば確かに少し……というかかなり鈍感でしたけど……でも、私はこの子のそんなところも含めて好きになったんですしっ……」
プリシラが、テーブルの下でぎゅっと手を握って来た。その温かい手に、私の心まで温かくなる。
「ですね~。そこもクリス様の味ですよねっ」
「エルザっ……」
エルザも手を握ってきてくれて、座った位置的に手を握れないソラリスが羨ましそうな顔をしていた。
「そ、それで、2人の紹介ですけどっ……!!」
私はまず、やっぱり、当然と言うかプリシラの方から説明することにした。だって、私はこの子と恋をするために人生をやり直したいと願ったんだから。結果として、さらに追加で2人の女の子と恋をすることにもなったんだけどね。
「この子はプリシラですっ……!! 私が、その……すっごい好きな子ですっ!!」
「ちょ……そ、そう言う紹介じゃないでしょ!?」
「あ、そ、そうだった……」
つい、気持ちが先走っちゃった。
「えっと……プリシラは、地方の領地を治めている男爵家の次女ですっ。で、私が大好きな子で……その……結婚したいって思ってますっ」
「だ、だからそう言うところが、その……もうっ」
プリシラがモジモジとしながらも、両親に向き直った。
「その……私ではクリスさんとは爵位が釣り合いませんが……それでも、私はクリスさんを愛しています……!! どうか、私とクリスさんの結婚をお許しくださいっ!!」
深々と頭を下げて、結婚の許しを請うプリシラに思わず目がしらが熱くなる。
あのプリシラが、こんなにも私と結婚したいと言ってくれるなんて……
「――いいですよ。許可しましょう」
「い……いいんですか? そんなあっさり……」
私でも拍子抜けするくらい、あっさりと認めてくれたんだけど。
「あっさりも何も、クリスが決めた相手なら私達は反対する理由がありませんもの。ねぇあなた?」
「そうだな。なにせクリスのことだから生涯独身を貫くんじゃないかとヤキモキもしたが……こんな素敵なお嬢さんを連れてくるとはなぁ」
「じゃあ……いいのね?」
「ああ、いいとも」
「ありがとうございますっ……!! お父様!! お母さま!!」
これで、私とプリシラは結婚できる……!! 遂に、ついに夢が叶うのだ……!!
「あ、それでこの子はエルザ、グリーンヒル伯爵家の後継ぎよ」
「以前に社交界でお会いしたことがあるわね。随分とまぁ美人になって」
「ありがとうございますっ……!」
「それで、どちらが第一婦人なんだい? 爵位から考えたらエルザ嬢だけど――」
「あ、それなんですけど、私とプリシラは大の親友でして……それで、プリシラがクリスさんのことを好きで好きでしょうがないみたいなんで、私としては第一婦人は彼女に譲りたいと思ってます」
それを聞いた父は、ピクリと眉毛を動かしたけど……特に反論は無いようだった。
「……まぁ、エルザ嬢がいいのならそれでいいですが……実家との折り合いは付いているんですかな?」
「はいっ、もうそれも納得させました。私が第二婦人で全く問題ないとのことです」
早っ!? 本当に手回しがいいわね……
「それで、私がソラリス――さんを我が家の養子に迎えて妹にして、貴族という事にします、それでそのままソラリスさんは第三婦人としてクリスさんのお嫁さんになる、ということで話も付いています」
「本当に、よく考えたわね」
「ああ、我が家とグリーンヒル家の縁談を取り持った功績で養子にする……という事にするんだったね?」
「はいっ」
改めて聞いてみてもめちゃくちゃな手段だ。でもこうでもしないとソラリスが私のお嫁さんになることは不可能だっただろう。
「ふむ……まぁ、ソラリスが第三婦人という事でなら、結婚の許可を出そう。流石に第一、第二だと色々と周りがうるさくてな……」
「ええ、しがらみと言うのも面倒くさいものですね」
貴族の中の貴族であるお父様達が言うのは少々滑稽にも思えるけど、それで私達の結婚の許可を出してくれると言うのだから感謝するしかない。
「それでは……」
「ああ、3人とも、クリスの嫁になるという事で異存はないよ。細かい条件はおいおい詰めるとして、ひとまずは結婚を認めよう」
「「「「ありがとうございます……!!」」」」
お礼を言うや否や、プリシラ、エルザ、そしてソラリスが私に抱きついてきた。
「やったわね、クリスっ!!」
「良かったですねっ!! クリスおじょ――クリス様っ!!」
「お嬢様っ……!! 私っ……私っ……!!」
嫁達からもみくちゃにされているそんな私を見て、母が、
「まぁまぁ、孫の誕生も近そうねぇ」
「はっはっは、母さん、女の子同士じゃ子供は出来ないぞ」
「それもそうですねぇ」
いや、2人とも笑ってるけど、まだ私、そういうことしてないからね? 何とかまだ逃げ切ってるから! 式までは絶対に逃げ切るからっ……!!




