第102話 何十年分の想いを込めて
「わぁぁぁっ……お似合いですよっ、お嬢様っ」
「そ、そう……? 変じゃない?」
「そんなことないわ……その……何て言うか……惚れ直したわっ」
「プリシラっ……」
「いやいや、これは想像以上ですね……もう絶世の美少年って感じですっ! クリスお嬢様っ」
ついに聖夜祭の日がやって来て、ダンスパーティーに出席するため私達はそれぞれ衣装に着替えて控室で待機していた。
私の彼女達3人はみんな可愛らしいドレスで、私は男装。まぁこれも決まりだから仕方ないか……、でも、仮装ってのも意外に楽しいものよねっ。
「男装の麗人ってこう言う事を言うんですね……お嬢様っ、お美しいですっ」
「ありがとっ、去年もおととしもソラリスに男装してもらったからね。今年は私がリードしてあげるわっ」
「ああっ……お嬢様っ……私、幸せですっ……」
感極まったような表情を浮かべながら、すすすと距離を詰めて来たソラリスを、
「こらぁ!」
「ああん……!!」
プリシラが首根っこを掴んで押しとどめた。
「全くもうっ……この子ってば隙さえあればクリスに抱きつこうとするんだから……!! ホント見かけによらず肉食系って言うか……」
「んもうっ、プリシラ様の意地悪っ……!」
「意地悪で結構よっ! 式を挙げるまではこの子は私が守るんだから!」
「でも式が終わったらプリシラが襲い掛かる側になるのよね?」
「それはそうでしょ」
しれッとした顔でプリシラがエルザに答えた。どうやら狩人さんは式が終わったら狼さんになるらしい。
「それにしても、油断も隙も無いわっ」
「だってぇ……男装したお嬢様にエスコートして頂けるんですよ……!? 興奮するなってのが無理ってものですよ……!!」
「……まぁ、気持ちはわかるけど……」
ソラリスだけでなく、プリシラやエルザまでが私のことをさっきからチラッチラ見ているのに、さすがの私も気付いていた。
いや、そんな見られると恥ずかしいんだけど……
「ああっ……もうっ……」
プリシラが、うっとりとした顔をしながらそっと私の頬に手を当てた。
「なんでこんなにも、腰が砕けそうになるくらい顔がいいのかしらっ……式が待ち遠しいわっ……」
そ、そんなに……?
「こんな好みの子と私、結婚できるのよね……そう考えると、私って世界一の幸せ者かも」
なんか聞いてるこっちが恥ずかしくなるようなことを言い出したプリシラに、案の定というかいつも通りと言うか、ソラリスが嚙みついた。
「そんなことありません!! むしろ物心ついたときからずっと好きだった人と結婚できる私こそ世界一なのでは……!? いや、そうに違いありません!! ねぇ、お嬢様!?」
「いや~でも、念願である理想のお嬢様に出会えて、その人と結婚できる私もなかなかの幸せ者ですよねっ、ねっ?」
プリシラに負けじと他の2人の子もアピールして来た。ああもうっ、可愛いなぁ……!! でも、
「いやいや、世界一の幸せ者は――」
私は3人をぎゅっと抱きしめて、
「間違いなく私よ? だってこんなに可愛い女の子を3人も貰えるんだもん。そうでしょ、私のお嫁さん達っ?」
「そ、それは……」
「まぁ……」
「確かに……」
「ねっ」
私のことを、3人の彼女達が上目遣いで見上げて来た。
「なんか今日のお嬢様、こう……強気って言いますか……こういうのもいいですねっ」
「そうね……これは多分、仮装のせいなのかしら」
「となると……結婚生活でたまに男装して頂くのもいいかもしれませんねっ」
え、ちょ……?
「まぁ、それもいいかもねっ、強気なクリスってのも意外と悪くないわ」
「ではそう言う事で! いやぁいい発見でした」
「ですねっ」
「え、えええ……?」
「でも、やっぱり私的には言い寄られてアワアワしているお嬢様が一番ですけど」
「それね」
「それですね」
「えええ……」
そうこうしている間に時間になり、私達ダンスパーティーに出る面々は会場へと向かっていく。
そしてそこには……
「お、おおう……」
びっくりするくらい、男装した女の子とその彼女のカップルが多かった。もう4割くらいは百合カップルなんじゃないの? ってくらい多い。
「いやぁ……ほんと、百合カップルって増えたのねぇ」
「その原因はお嬢様とプリシラ様ですけどねっ」
「やっぱりそうなのかしら」
「そりゃそうですよ。だって去年は全然こんなふうじゃなかったですし」
「そっかぁ……」
私が過去へとやってきたことで、こうも世界が百合色に変わってしまうとは……いや、ホントびっくりよ。
だってこれくらい百合カップルが当たり前になるの、私が初老って辺りの年齢になったころだったもん。それが私のおかげで何十年も早まったと考えると……凄いことね。それだけでも、私が過去に生まれ変わった意味はあったのかもしれない。
これが学園内だけにとどまらず、いずれ世界中に百合の花が咲き誇ったら素晴らしいなぁ……
あぶれる男の人がいるような気もするけど、それは気にしない方向で……多分何とかするでしょう、うん。
「女の子同士っていいわよねっ、ねぇクリス?」
「そうね、最高ねっ」
私は傍らのプリシラの手をそっと握った。
隣でソラリスが「む~っ」と頬を膨らませているけど、ソラリスはこの次ね?
だって私、何十年もこの日を待ったんですもの。この、愛しいプリシラと踊れる日を。
「ではお嬢さん? ――私と踊って頂けますか?」
「――ええ、しょうがないわねっ、ちゃんとエスコートしてよっ?」
ぱちりとウインクをするプリシラの手を握りながら、流れて来た音楽に合わせて私達は踊りだした。何十年分の、想いを込めて――




