第101話 泣くわよ!?
「そろそろですねっ、お嬢様っ」
「え? 何が?」
私は自分の部屋でソラリスから膝枕をされながら答えた。
「何って、決まってるでしょ? 聖夜祭のダンスパーティーのことよ」
「楽しみですよね~。私、クリスお嬢様と踊れるの楽しみですっ」
そばには当然のことながらプリシラとエルザもいて、代わりばんこで私に膝枕をしてくれている。
ついさっきまで私の頭はプリシラの膝の上にあって、そして今はソラリスの膝の上……という、彼女3人からの膝枕なんてもう贅沢にもほどがあるってものよねっ。
「でもそっか……聖夜祭……もうそんな時期なのね」
聖夜祭というのは年末にある学園のイベントで、みんなで集まって新年を祝うイベントだ。その時に必ず開催されるのがダンスパーティー、要するに好きな子と踊るってやつなんだけど……私は去年もおととしもソラリスと一緒に参加していた。
だって恋愛的な意味で好きな子なんて思いつかなかったんだもん。だから一番親しいソラリスと一緒に出てたんだけど……
「早いものですね……今年が始まった時は、まさかこうして彼女にして頂けるなんて夢にも思っていませんでした」
「あら? そう言う割には積極的にアピールしていたじゃない」
プリシラが私の足を揉んでくれながら、私の頭を膝に乗せているソラリスを羨ましそうに見つめた。
こらこら、あなたはさっきまで膝枕してたでしょ?
「だって、お嬢様ったらプリシラ様に夢中で、私の気持ちに何て全然気づいてくれないニブチンだったんですもん」
うん、それは本当に、ごめん。
「それは……まぁ、同情するわ。なにしろこの子、私のことを好きなくせに、私が好きになったことにも気付かないくらいの鈍感娘だもんね……」
プリシラが、大きくため息をついた。
「おかげであなたからして貰うはずだった私のファーストキスを、私からする羽目になったわけだし」
「だって……プリシラが私を好きになってくれてるなんて、思わなかったし……」
「その前にも私言ったわよね!? ほら、私の縁談をぶち壊してくれたとき!! 『私のためにずっとご飯を作って欲しい』って!! あれで気づかないって相当よ!?」
「え? だからご飯を作って欲しいんでしょ?」
「……はぁぁぁぁぁ……あのねぇ……」
「……プリシラ様、ドンマイです」
「クリスお嬢様? 敢えて言いませんでしたけど、世間ではアレをプロポーズって言うんですよ?」
そうなの!?
「私のためにずっとご飯を作って欲しいってことは、ずっと一緒にいて欲しいってことでしょ!? つまり、その……そう言う事よっ!!」
「そ、そうだったんだ……」
今の今まで気付いてなかった……あの時点でまさかプロポーズされていたなんて。
「本当に鈍いんですねぇ……私もお姉さまと一緒に隣のお部屋で聞いてましたけど、思わずずっこけましたもん」
「私もずっこけました」
「私は引っぱたいてやろうかと思ったわよ……」
「だってぇ……」
「だっても何も無いわよっ!! それよりも……ダンスの練習、しないとね。去年はどうしたんだっけ?」
「ああそれは……」
私が言いかけたところで、ソラリスがエッヘンと胸を逸らした。
「去年もおととしも、私がお相手を務めさせていただきました!!」
「何それ!! ずるいっ!!」
「だって、私がお嬢様の一番身近な存在だったんですもん、当然ですよねっ」
「ぬっぐぐぐぐぐ……」
事あるごとに私を取り合って仲良く喧嘩をしているプリシラとソラリスが、バチバチと火花を散らしている。昨日もどっちが私にご飯を食べさせるかで揉めに揉めてたし。
「ああっ……思い出しますねっ……私が男装して、お嬢様をエスコートしたことを……私の宝物のような思い出ですっ」
「まぁ、お胸が全然潰しきれてなかったからどう見ても男の子には見えなかったけどね」
私の場合は簡単なんだけどね!! はっはっは……はぁ……
「それで? 今回はどうするの?」
「え? それは勿論あなた達と一緒に出るけど」
「それはわかってるわよ。だから、どっち側が男装をするかって話よ」
「ああ……」
ダンスパーティーには女の子同士で参加しても何の問題も無いんだけど、ダンスと言う性質上踊る方のどちらかが男装をする、と言う決まりになっていた。
当然、エスコートする側が男装をすることになる。でも、そうなると……
「えっと……どうしよっか」
「そうですねぇ、以前まででしたら私が男装ってことでよかったんですけど……私達、お嬢様の『お嫁さん』なんですよね」
「そうね」
「そうですね」
「となると……お嬢様に男装をしていただくのが筋かなって」
「え、ええ……? でも私、その……どっちかというと、私の方があなた達のお嫁さん、って感じしない?」
何と言うか、こう……受け攻め的に……みたいな? いや、まだそういうことはしてないけどね?
「それはそうです、が」
「それはそれとして、ね」
「そうですね、対外的にはやっぱり私達がお嫁さん、ですよね」
ここぞとばかりに3人は、綺麗に足並みを揃えて来た。
「それにねクリス、見てごらんなさいよ、この子の立派なものを。それに私だってこの子には負けるけどそこそこあるわ。あとエルザだってなかなかのものよ? それに比べたらあなたは――」
「泣くわよ!?」
気にしてるのにぃ!! ペッタンコなの気にしてるのにぃ!!
「いや、私はあなたの胸、とてもいい形だと思うわよ? うん」
「慰めになってなぁい!!」
持っているものは持たざる者の気持ちは分からないんだ!! ちくしょう!!
「それに……」
「それに?」
「あなたが男装なんかしたら、絶対似合うわよ?」
「とどめを刺したいの!? あなた!?」
どうせ私のは小さいですよぉ……だ!!
「いや、そう言う意味じゃなくて、ほら、あなたって最高に顔がいいから……ね? 見て見たいなって」
「お嬢様の男装……私も見たいですっ」
「私も私も!! 絶対カッコいいですもん!! この世の男が束になってもかないませんよ! 絶対!!」
「む、むぅっ……」
そこまで言われると、悪い気はしないわね。それにまぁ男装って言うのも仮装と考えたら楽しそうだし。
「じゃあ……いいわっ、私が、みんなをエスコートしてあげるからっ」
「わぁっ!! ありがとうございます! 楽しみです、お嬢様っ!」
「そうね、楽しみにしてあげるわっ」
「しかし……アレですよね、3人の恋人とダンスする人なんて、歴史上そうはいないですよね」
「いや、まぁほら、過去には王族とかでそんな例もあったとか無かったとか言うし……」
やっぱり3人と踊るって言うのは、絶対目立つわよねぇ……なにせ公式な3股なんだし。
でもまぁ、覚悟を決めるしかないわよねっ! だって私、この子達の恋人なんだもん!




