第100話 百合の花が満開
私がプリシラ、ソラリス、そしてエルザという3人の女の子と同時に付き合うことになったと言う噂は、瞬く間に学園中を駆け回った。
もっとも、私とプリシラが嫌い合っているフリをしながら実はこっそり付き合っていた――という全く真実ではなかった噂は既に知れ渡っていたので、そこについては驚かれなかったらしいけど――流石に追加で2人、しかもその2人共女の子ともなるとその食いつきっぷりは半端なものでは無かった。
おかげで教室に4人で向かう――エルザは別教室だけど――最中も生徒達に掴まって質問攻めをされた。
そして始業のベルを待っている今でも、クラスメイトからの質問攻めをお代わりされていた。正直もう何回も話したけれど、幸せなので何回話してもいいものだ。
「流石はクリス様……!! 3人と同時にお付き合いなんて……!!」
「痺れますわ……!! 憧れますわっ……!!」
「しかも全員女の子……!! 百合百合ハーレムですねっ……!! 羨ましいっ!」
「え、あなたそっち系だったの?」
「だってぇ、ほら、最近流行ってるでしょ? 女の子同士でのお付き合いっ」
「まぁ、確かに、そうね。なんか今年度に入ってからやたら増えた気がするわ」
そのクラスメイトの言葉通り、私が生まれ変わったばっかりの頃は百合カップルって結構珍しかったのに、ここ数ヶ月でちらほら……と言うか結構見かけるようになっていた。
廊下でも仲良く恋人繋ぎしたカップルが歩いているし、食堂では女の子同士での『あーん』がそこかしこで行われているらしい。
まさに百合の花が満開だった。
「それってたぶん……クリス様とプリシラのおかげですよねっ」
「そう……なのかしら?」
「そうですよぉ! 嫌い合っていた2人が、実は人目を忍んでこっそり付き合っていたなんて……もう聞いただけでドキドキしちゃいますっ!」
「そうよね、それで、仲睦まじいお2人の様子を見て、自分の心に正直になった女の子達が想い人に気持ちを伝えて、あちこちで百合カップルが生まれた……ということでしょう」
え……? という事はつまり、私が時をさかのぼってきた結果……こうも百合カップルが増えたという事? 色々な人の運命変えちゃってない? それ?
生まれなくなった命が多数ありそうだけど……ま、まぁ、真実の愛に目覚めた、ということならそれもまたアリ……なのかな?
「それで、私達も付き合ってるんですよ~えへへ」
「ホント、クリス様たちのおかげです、ありがとうございますねっ」
「実は私もなんですよ!」
「ね~?」
「女の子同士っていいよねっ」
「ええ、勇気を出してよかったわっ」
クラスメイトの間にも、百合の花が咲き乱れていた。えっと……確かこの子達全員殿方と結婚する未来だったはずだけど……幸せそうだし、ヨシ!
「でもソラリス、良かったね~。あなたずっとクリス様のこと好きだったもんね」
「うんっ、もう幸せよっ……!!」
「あ、ちょっと……!! ほら、ソラリスって――」
ソラリスのことを祝福していた友達が、別の子から袖を引っ張られた。
「あ……そっか……ご、ごめんね?」
「いいのよ。だって私、幸せだし」
ソラリスの友達は、ソラリスが平民だから私と結婚できずに妾になるしかないと思っているらしい。いや、普通に考えたら確かにその通りなんだけど、ソラリスったら裏技使ってそのルールを突破して来たのよね……ホント驚いたわ。
まぁ話すと長くなるから、ソラリスとしても正式に決まってから話すみたいだけど。
「ね~? お嬢様~?」
ソラリスは宣言通りに幸せいっぱいって顔で私の腕に抱きついてきて、その豊かなものを押し付けて来た。ちょ……!? ここ教室よ!? あまり過激なのは良くないわっ!!
「付き合ってるのに、まだ『お嬢様』呼びなんだ」
「だって、お嬢様はお嬢様だし」
付き合うにあたって、もうメイドじゃなくて妻になるんだからデートの時みたいにクリスって呼んで欲しいって言ったんだけど、『式を挙げるまではお嬢様のメイドでいさせてほしい』と言われたので、結局呼ばれ方はそのままだった。
まぁ私としてもその方がしっくりくると言えばそうなんだけど。それにその……なんか背徳感もあっていいしね、いや、そう言う事はまだキスまでしかいないんだけど
「…………」
そして気が付いたら、私のもう片方の腕にも凄く柔らかい感触が……見なくても分かる、焼きもちを焼いたプリシラだ。
「まぁ! プリシラったら」
「でもそうよねっ、プリシラの性格なら、他の彼女に負けたくないもんね~?」
はやし立てるクラスメイトの視線をものともせず、プリシラは赤い顔をしたまま私を掴む腕にぎゅっと力を込めた。
「……そ、そうよっ、だって、クリスの最初の彼女は私なんだからっ」
「「「きゃー―――っ!!」」」
プリシラの言葉に、周りの子達が一斉に黄色い声を上げる。
「最初って言っても、そんなの1時間のリードも無いじゃないですかっ、プリシラ様っ」
「1時間でも、最初は最初よっ! 私が1番だという事実は変わらないわっ! それにクリスは、前世から私のことが好きだったなんて言ってくれたんだからっ」
2人は私を挟んでにらみ合う。あ、うん、確かに前世からすきだったけどね?
「わぁ~大変ですねぇ、クリス様っ」
「彼女同士のさや当て……燃えるっ!」
「まぁ複数の彼女を持った宿命ですよね~」
「しかもそこにもう1人加わると言う……」
「しかもしかもお相手はあのエルザ様……!! いやはや……流石はクリス様ね」
実際のところエルザは私の嫁になると言うよりメイドになるため、そしてソラリスと私が結婚できるようにするために、私と結婚するんだけど……まぁそんなこと言えるわけも無いわよね。
「で? プリシラが第二婦人なのよね?」
「いいえ、私が第一よ」
「そうなの!? でも、エルザ様は?」
「そのエルザが譲ってくれたのよ。友達だからって」
「はぁ……いい友達持ったわね……普通あれだけの家柄の次期当主で第二婦人何てありえないわよ?」
「私もそう思うわ」
プリシラが、困ったような照れたような顔で笑っている。いやほんと、エルザさんっていい人よね。エルザさんのおかげで大体の問題が解決したわけだし。
「じゃあ、4人とも……って1人はここにいないけど、お幸せにっ」
「ありがとっ」
クラスメイトからの祝福に、私は笑顔で答えた。




