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35 陥落でござる



「んで?」

「で、とは」

「どーなってんだよ、状況は」


 クド=クルガゼリオとクラヴィス=デイルヴェスタが並んで歩いている。地下七階から、地上一階に向かって。


「どう、と言われてもな。イリアが兵隊を操って殺しまわっている」

「んなこたわーってるよ。強えやつは出てきてんのか、って話だ」

「無茶を言うな。この王都で俺たちに立ち向かえる人間が何人いると思う。〈魔人転化(デモナイズ)〉なしの状態だったとしても、だ」

「騎士団は?」

「いま殺してきただろう」

「皆殺しってわけじゃねえ」

「騎士団長のノージェスというのがいるが……いまいちだな。せいぜい素の俺たちと同格程度だ」


 んだよ、とクドは血に固まった髪をバリバリと掻いて、


「他にゃいねーのかよ。Aランクのやつとかよ」

「『翠嵐』のフェダーロイのことを言っているなら、あいつも同じくらいだ」

「……ザンマ=ジンくらいしか相手になるやつはいねえってか」

「もう一人の魔人もいる。適合度は俺たちよりも段違いに高いぞ」

「人間とやるからおもしれえんだろ。大砲を叩いて壊して何が楽しいんだよ」


 わがままなやつだ、とクラヴィスが嘆息すれば、とうとう地上に出た。


 一面の死体。

 騎士団の。


「遅い」


 待ち受けていたのは『聖女』イリア=パーマル。

 そしてその横に立つ細身の青年は彼女の弟、『聖騎士』ナイン=パーマル。


 こっちの台詞だ、と言いながらクドは、


「おい、お前ここのやつら全部ぶっ殺しちまったのか」

「ナインがね」

「んだよ……。ちょっとくらい先輩に残しといてやろうって気遣いはねーのか?」

「…………」

「何が先輩よ。あんだけザンマには喧嘩売るなって言ったのを無視してズタボロにされた癖に。ぶっ殺されたらどうするつもりだったのよ。ゴミ。クズ。無能」


 はいはい、とクドはそれを受け流して、


「あ? スィープモーターのジジイはどうした?」

「地獄に落ちたわ」


 クドがクラヴィスに振り向く。説明を求めるように。


「一月前に死んだ。お前が捕まってから実験体の収集が怖くなったらしくてな。結局大して制御技術も確立しないまま自分に『ダンジョンコア』を埋め込んで、見事に拒絶反応で死んだよ」

「不老不死に憧れたジジイらしい、哀れな最後だったわ」

「ああ、そ……」


 くっだらねー死に方。

 クドは聞いて損したとばかりに耳穴に指を突っ込んで、


「んじゃ今、そのコアはどうなってんだよ。余ってんだろ、一個。ナインに埋めたのか?」

「…………」

「埋めないわよ。そもそもあたしと組んでる時点でコア入ってるようなもんなんだから」

「んじゃ俺にくれ」

「馬鹿? あんたどーせピンチになったらもう一個埋め込んでパワーアップとか考えてるでしょ。単細胞。拒絶反応で死ぬってわかってる馬鹿に渡す馬鹿はいないわよ」

「いざとなれば魔力リソースとして使えるからな。一番手数を必要とするイリアに持たせることにした」


 案外、クドはそれを聞けばすんなり引き下がる。


「んで、こっから城か?」

「もうすぐ落ちるわよ」

「……おい、なんだそりゃ。お前とナインがここにいて落とせるってそりゃ、雑兵だけで落ちるってことか?」

「仕方がない。イリアの戦闘は敵数が多ければ多いほどハマるからな」

「ノージェスとか、フェダーロイとか、そういうやつらがいるんだろ?」


 そういえば、とイリアは首を傾げて、


「見なかったわね、あいつら。騎士団も『翠嵐』も結構やった覚えがあるけど」

「何も不思議なことはない。逃げているのだろう」

「あ?」

「今頃城に誰も要人はいまい。ノージェスとフェダーロイあたりが王と王子を連れて避難を始めた。そんなところだろう。代々武芸修練をしていない王族に戦闘能力はない上……ヒナトの前は跡目争いに巻き込まれて死んでいるしな」


 ふん、とクドは鼻で馬鹿にして、


「くだらねー国だ」

「そのくだらない国にもいいところがある」

「なんだよ」

「どうせ逃げ場所と言ったらライトタウンだ。かえってそこで、気持ち良く最終決着をつけられる」

「……ま、それもアリか。にしても期待外れだったな、王都は」


 四人揃って外に出れば、もう王都は血の海。

 徘徊するのは国民ではない。すでに命を亡くしながらもなお動く、死体の人形たち。


 特A級悪魔を討伐したのちに、Dr.スィープモーターの技術によりその魔力を失わないまま取り出された『ダンジョンコア』は、かつてそれが生み出した特A級悪魔の力を内包している。


「んじゃ、とっととライトタウンに行くか」


 クド=クルガゼリオ所有の『ダンジョンコア』――内包するのは『窮奇』。


「一応馬の悪魔……ナイトメアとか用意しておいたけど、最終決戦だって考えたらちょっと遅れて行った方がいいかもね」


 イリア=パーマル所有の『ダンジョンコア』――内包するのは『黒き神(チェルノボグ)』。


 どうせなら、とクドが言った。


「城でもぶっ壊してから行くか?」

「いや、その必要はない」


 クラヴィス=デイルヴェスタ所有の『ダンジョンコア』――内包するのは『夢の蝶(オネイロス)』。






「もう、消しておいた」





 風に紙片が吹き崩れていくように、遠くに見える王城がバラバラに千切れて空に舞い上がっていく。


 王都陥落。

 その知らせが、国中を震わせることになる。







 街道を、馬が往く。


 王と、二人の王子。

 それから騎士と、冒険者。


「まいったね、教会と公爵家がごっそり反乱とは……。死体を操る魔法に、幻を見せる魔法か。イリア=パーマルにクラヴィス=デイルヴェスタ。あの二人に本気で動かれちゃどうにもならんね」

「フェダーロイ、お前は……」


 騎士の名はノージェス。冒険者の名はフェダーロイ。


 けれど、もうノージェスは、フェダーロイがただの冒険者ではないことに気付いている。


「一生自己紹介なんてするつもりなんてなかったんだけどねえ。どうぞよろしく、騎士団長ノージェス殿。――特任騎士筆頭、フェダーロイと申します」


 五人が走る。

 崩落した都を逃れて、決戦の地へ。




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