終章
クリスマス当日に発生した徳島男子高生殺傷事件を最後に、この話を終わらせようと思う。
今まで私は愛され病患者である奈々原一華(被害者)の思春期の恋愛についての研究をしていた。
愛され病は8万人に1人の確率で発症する精神病である。
愛され病は「数多の人に愛される」病気。それと同時に患者は「今まで愛されてきた分を超えるほど深い愛を求めすぎてしまう」という特徴がある。
故に奈々原一華は、兄弟からもらった愛、両親からもらった愛を超える愛を知らぬ間に探していた。
しかし彼には独特の趣味があり、それが自分の血を抜いた時の快感を楽しむというのもだった。
奈々原一華は、同級生に西畑(容疑者)のことをこう話している。
「西畑さんは僕の初恋の人によく似ているんです。なんですかね、初めて会った時、どこかが似ていると思ったんです」
彼はそれきり、彼女のことを”もう一人の二乃前さん(初恋の人)”と錯覚するようになり、彼女をストーキングし始めた。
それが彼なりのSOSであり、彼なりの愛情表現なのだ。
しかし彼はたくさんの人にアプローチを受ける。彼はそれを全て拒否した。それを理由に彼が愛していた西畑は一部の女子生徒と対立してしまったが、彼女にも問題があったのだ。
彼女はクリスマスの事件のあと、すぐに警察に連行された。
あのあと彼女は獄中で自殺したらしい。
彼は不思議がった。
愛してる=壊したい。
愛してる=壊されたくない。
愛してる=壊されたい。
この3択で圧倒的に三つ目を選ぶであろう奈々原一華は、何故か彼女を「守りたい」と思ったのだ。
庇護欲を掻き立てられ、彼は自らをボディーガードと称するようになった。
愛され病は、いったいどんな病気なのだろう。
あの事件をきっかけに、私はそれを研究し続けている。
そういえば東京都の○×区で起きた、兄妹殺傷事件の犯人もあの後、逮捕された。
残念ながら私はその犯人と接点がないので、彼女のことをよく知らない。
私は自分の能力の低さに絶望している。
なぜ自分は、研究対象である奈々原一華に触れてしまったのだろう。
陰で彼のことを見ているだけでよかったのに。
奈々原一華も同じである。
写真で見ていられるというのに、もう会えない「二乃前さん」という存在を求めすぎた。
そして結果、西畑三月という女に出会ってしまったのだ。
彼女は何者でもない。何者でもなかったのに。
愛され病という偏見で奈々原一華を殺した。
そして、殺人犯として獄中生活を送ることになった。
勝手に期待して、勝手に失望した彼女は、この事件に置いて最大の悪魔だ。
3人の女子生徒が彼女のことを悪く思っていたのも、別の見方が出来てきた。
奈々原一華と出会わなければ、私は今このような文章を書いていなかったかもしれない。
私は大人になった今でも彼が殺されたあの現場を覚えている。
全ての人間は、完全に愛されることはできないと証明できかけてきた。
いや、できないこともない。やろうと思えばできる。
相手のことを、『全て』知ることができれば、きっと相手を完全に愛すことができる。
しかし人間は、今のところ、恋人であれ家族であれ、相手の全てを知ることはできてない。
未知の世界の扉を、私は今開こうとしている。
あれから、私はいっさい恋愛というものをできなくなっていた。
恋愛が恐ろしいわけではない。恋愛ほど難しいものはないと思っているだけだ。
そういえば、愛され病は全ての人間が人間が自認しているとは限らないのだ。
まずそもそも、愛され病の検査を受けないことが多い。
だから8万人に1人しかならないと言われているのだ。
私は最近、よくいろんな人に話しかけられる。色目を使われることもある。
もう誰からも愛されたくない。
東京都○×大学 ▲▲部
愛され病研究科 一年
永瀬 太陽
どうも牛田もー太朗です。今作はこれでおしまいになります。
最後まで読んでくださりありがとうございました。




