表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/27

長尾景虎、参るっ


 撥ねられただけならまだしも、その勢いで僕はブロック塀に叩き付けられ、そのままトラックと一緒に寺の敷地内にふっ飛ばされてしまった。


 トラックというよりも「ダンブカー」と称した方が早い巨体だったので、さすがの僕も一瞬だけ、頭の中が真っ白になったほどだ。


 で、轢いた相手はどうやら外に飛び出したらしく、外で仲間が騒ぐ声が聞こえた。





「影踏みさんがっ」

「マスター!」

「大丈夫ですって、マスターはそう簡単に死なない人ですっ」


 これは多分、薄情なダニーの声だろう。


「それより、相手に集中を! こいつも本当にただの人間じゃないっ」


(僕は後回しか、おい)

 この場合、正しくてもむっとするのが人情である。


「よくも、よくもよくもよくもぉおおおおっ」

「はっはっ! なんだ、仕返しでもしたいのかよっ」


(おわっ)


 最後に、シオンの子供っぽい絶叫に続き、野太い声が聞こえたあたりで、夢うつつに聞いていた僕は跳ね起きた。

 一緒に飛ばされたブロックの瓦礫を撥ね除け、しゃきっと立ち上がる。

 一応骨折は……あ、腕が妙な方向に曲がってるか。


「やってくれたな、おい!」


 むかむかした僕は、複雑骨折した腕をぶらぶらさせつつ、トラックが開けた大穴から、外に出た。幸い、寺の関係者は出てこない。


 結構な大事故(故意だが)なのに、現状、誰も気づいてないらしい。


「ったく、クリーニングから返ってきたばかりなのに」


 埃まみれのワイシャツを左手ではたいていると、敵に飛びかかろうとしていたシオンが走ってきた。よし、ちゃんと間に合った、うん。


「レイさぁんっ」


 涙だらけの顔で、シオンがひしとしがみついてくる。


「馬鹿だな。僕が簡単にやられるわけないだろ?」


 頭を撫でてやると、ようやく泣き濡れた顔を上げてくれた。




「おまえ……想像以上にタフだな」


 僕の右手がすぐに治ったのを見たのか、呆れたように首を振る毛むくじゃらの男は、上に下着のシャツしか着てない。

 下はよれよれの作業ズボンで、ガテン系の人でも顔を背けるほど、むわっとする体臭がしていた。


「あんたな、言っておくけど、僕もたまには怒る時が」


 僕がびしっと文句言ってやろうとしたその時、シオンにわずかに遅れ、先生まで飛び込んできた。


「影踏みさんっ。よかったぁ、生きてるっひくっ」


 ……最後に声からして、この人も半泣きだったらしい。

 そこまで弱々しい奴と思われていたのか、僕は……仮にもモンスターなのに、これはこれで心外だ。


「おい、君が誰かは置いて、とりあえずやり返す――」




「長尾景虎、参るっ!」




「……話の途中だったのに」


 長尾さんが、木刀片手に元気に飛び出し、僕は密かに息を吐いた。

 ただ、長尾さんの一撃は見事に肩口に当たりはしたが、相手はちょっと顔をしかめただけだった。


「こんなものっ――くっ」


 木刀を掴み取ろうとしたが、その前に素早く身を引き、長尾さんが次なる攻撃に出る。

 途中でスカートが翻って純白の下着が見えたが、さすがにスピードからして、ばっちり見えたのは僕くらいだろう。


「はっ」


 今度は低い姿勢から木刀を跳ね上げ、見事に敵の右手首を打った。さしもの怪人も、顔をしかめて飛び退ったほどだ。右手首が折れたのは明らかで、僕の溜飲が大いに下がった。


「しょんべん臭い小娘があっ」

「おい、僕もいるんだよっ」


 言下に、ブロック塀の破片が一斉に浮き上がり、大木みたいな男に殺到する。無論、ダニーの攻撃だが、向こうはひらっと飛び上がることでこれをかわした。


 素早さもまあまあらしい。


「けっ、そんなんでやられるかって」

「お……目が赤くなった」


 否応なく観戦してた僕が他人事のように呟くと、抱きついていた先生が僕の体を揺すった。


「レイ君、平気ならみんなを助けてあげてよっ」


 シオンは安心しきって抱きついているだけなのに、教育関係者とは思えない人である。


「……なんか、ほっといても大丈夫そうですが。だいたい僕は、基本、平和的な店のマスター代理ですし。殴り合いとか、特に好きでは」

「吐かせぇええっ」


 ダニーがさらなる攻撃に出ようとした時、相手はなんと、手近な自動販売機に駆け寄り、留め金を引きちぎる勢いでそれを抱え上げた。


「その程度で……力自慢のつもりかな?」


 どうやら向こうは僕とやり合いたいらしい。

 希望に応じるつもりで、僕も前へ出てやった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ